飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「ボンクラーズ、ドントクライ」感想

ボンクラーズ、ドントクライ (ガガガ文庫)

ボンクラーズ、ドントクライ (ガガガ文庫)


物語の始まりから終わり、そして余韻まで。全てを楽しむことができた。
高校生の『特撮映画作り』を題材に描く青春小説。

舞台は1999年とインターネットがそれほど普及しておらず、現在のようなオタク文化が芽を出し始めた時代。
田舎にある高校に通う藤岡と佐々木は映画研究部にも関わらず、特撮ヒーローの真似事をして過ごす日々を送っていた。ある日、学校に非常勤として赴任してきたばかりの新人の美女教師、松野先生の好意によって映画研究部にビデオカメラを借りられることに。喜ぶ二人ではあったが、そのビデオカメラを取り返そうと部室で待ちかまえていたのは、美少年に見間違う男装少女の桐香。松野先生の妹であり映画研究部の二人にとっては後輩である桐香は、思い出の品であるビデオカメラを取り返すために映画撮影対決を持ち出し、二人が勝てばビデオカメラを借りられ、桐香が勝てば映画研究部は彼女に乗っ取られることになる。そもそもビデオカメラもなく映画に関しては素人の二人が、中学時代に映画研究部にいた桐香に勝てる訳がなくあっさり敗れるも、彼女の映画撮影技術に感動した藤岡の提案と佐々木のやや強引な押しにより三人で特撮映画を撮る展開になる。

特撮映画大好きバカの藤岡ことカントク。どうにも頭の固い桐香。そして事あるごとにぶつかる藤岡と桐香の間に挟まれ、映画編集に脚本作りと奔走する苦労人の佐々木。
映画撮影にかける情熱と、三人の関係が絡み合い、高校生の青春を見事描き出している。それだけに読んでいて心がギュッと鷲掴みにされる切ない感覚に襲われる。
常に反発し合う藤岡と桐香ではあるものの、ふとしたことでお互いの才能を認め、その距離を縮めていくのだが、その二人の様子を見つめる佐々木の姿に悶え苦しんだ。中盤、桐香と佐々木の距離が近づいたように思える場面があっただけに余計に胸が苦しくなるよ。桐香の姉へのコンプレックスが発端となり崩れかけた映画研究部と、映画への想い。それを繋ぎ止めたのは佐々木の熱い想いで、その想いが藤岡と桐香の関係を結ぶ続ける結果になったのは、ある意味バカだなあ、と。親友のために、好きな人のために、最後には本気で二人を想うことができた佐々木は男だよ。涙が出るくらいに。最後の佐々木の独白は、舞台が現代ではないからこそ吐けるモノだったので、読者にとんでもなく楽しい余韻を与えたのだと思う。

『仮面ハンドー』一号、二号としてがむしゃらに駆けるバカ二人が、本当に好きだ。