飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「デッドエンドラプソディ」感想

デッドエンドラプソディ (講談社ラノベ文庫)

デッドエンドラプソディ (講談社ラノベ文庫)


久しぶりに惹かれるあらすじに出逢った。
内容の方も十分面白かった。常軌を逸した『兄愛』を見よ!

通り魔に刺されて死亡。享年16歳。
薄れ行く意識の中で泣きじゃくるまだ6歳の妹を感じながら息を引き取った…はずなのに、次の瞬間に目を覚ます。困惑する主人公カスカが目にしたのは、最強の魔術師となった妹シオンの姿であった。カスカを蘇らせるために10年の時を必要とした妹は同じ年齢になっており、記憶にある大人しい妹とは思えないほどに見た目も言動も変わってしまったシオンに更に困惑を深めるものの、魔術師なる非科学的な存在を受け入れつつ、シオンの師匠であるナギの計らないによって高校生活を再スタート。妹と同級生となり平穏な日常が訪れる、などということはなく『人を蘇らせる』禁忌を犯したシオンと禁忌そのものであるカスカを滅ぼすために刺客が送られてくる。

冒頭の死に行くカスカの描写に息を呑む。冷静に周囲の状況を見つめるカスカの死の視点が怖い。かと思えば直後に復活してそこは10年後の世界。しかも自分と同じ歳に見える美少女が妹を名乗ってくれば戸惑うのは当然で、それまでの流れを読みカスカのその戸惑いが良く伝わってくる。この作品のひとつの特徴なのだが死から蘇ったカスカの視点が物語の全てであり、読者でさえカスカの見る夢なのではないかと思ってしまう。そしてもうひとつの魅力である『兄愛』に溺れる成長した妹シオン。カスカの死によって歪んだ10年を過ごしたシオンの言動は兄を神格化に近いもののように捉えていてとても危うい。エクソシストやゴーストバスターといった刺客たちも、最強の魔術師であるシオンには手も足も出ない絶対的な力を持っている。溺愛する兄のために人殺しも厭わない妹をどう行動と言葉で止めるかがカスカの兄としての責務。シオンがこれまで『不条理』とどう戦ってきたかを知り、周囲の人間もまたどういった『不条理』に晒されているかをカスカが感じる描写は心が痛い。もっとも深い『不条理』を妹に与えてしまった兄の死は、彼女を狂わせるには十分だった訳で。

と、ここまで重い話で進めてきたけども日常パートではコメディ要素も強く、特にエクソシストであるエリシアが転校してきてからが面白い。カスカに接近するエリシアに嫉妬するシオンは可愛い。でも怖い。
新人賞作品ではあるが、最後の描写は次回に繋がっている。まさかあの人が『不条理』を抱えていたとは。