飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「エスケヱプ・スピヰド」感想

エスケヱプ・スピヰド (電撃文庫)

エスケヱプ・スピヰド (電撃文庫)


第18回電撃小説大賞作品。
テーマを据えた完成度の高い物語と近未来兵器によるアクション。
大賞に相応しい作品でした。

時代は昭和101年。
激しい戦争から逃れるため地下壕で冷凍睡眠していた避難民たち。戦争が終わり冷凍睡眠から目覚めた彼等を待っていたのは、「敵と戦え」という命令をただ遂行するだけの壊れた機械兵が跋扈する廃墟の『尽天』の街であった。戦争で大切な人を喪った少女・叶葉は、尽天で仲間とともに生きていくため必要な物資を探していた際に暴走する機械兵に襲われる。絶体絶命の叶葉を救ったのは、かつて『最強』と呼ばれた兵器『鬼虫』…その九番目の兵器である『九曜』であった。戦争で傷ついていた九曜は叶葉を暫定の司令官に設定し「細かい思考」を全て彼女に丸投げ。兵器らしく感情の見えない九曜に不満を抱く叶葉であったが、次第に二人の距離は縮まっていく。が、そんな二人に…仲間たちに、一番目の『鬼虫』であり九曜と因縁のある『竜胆』の脅威が降り掛かる。

戦争の道具として産み出された『鬼虫』…九曜と竜胆。戦争で活用される以外に生きる術を知らない。同じ虚無を抱える九曜と竜胆であったが、九曜は叶葉に出逢い、その素朴な優しさと温もりを感じることで『人の心』を手に入れる姿がしっかりと描かれている。そしてかつて大切な人に置いていかれた叶葉は、九曜と交流することでその縛られた想いから解放され成長していく。兵器と人間の心の成長。そのお手本のような物語を堪能させて頂いた。また巨大虫型兵器同士の戦闘は手に汗握る。命を賭した戦いがここにある…!