飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「こわれた人々」感想

こわれた人々 (ガガガ文庫)

こわれた人々 (ガガガ文庫)

〈あらすじ〉
高校生・向井城介は、普段は人との交流を持とうとしない暗い少年。しかし、昔から「突然キレて上級生と殴り合いのケンカを始める」「プールの授業中に抜け出して女子の下着を盗む」など数々の奇行に走るために、学校中から「不安定な奴」として避けられていた。そんな城介の行動にクラスメイトの倉橋美冬は、3年前に不慮の事故で亡くなった母を重ね合わせる。最期まで母のことを理解してあげられなかった美冬は、城介に救いの手を差し伸べようとするが――。
第6回小学館ライトノベル大賞、優秀賞受賞作!

鳥肌が立つほど面白かった。物語全体通してキャラクター全員が意味を持って存在している。もうキャラクターの動かし方が素直に「上手い!」と思える作品。
普通の人には見えない存在『ウラビト』が見えるばかりか、欲望のままに存在する彼等に身体を乗っ取られて奇行に走ってしまうことから変人扱いされている主人公・向井城介。そんな向井の奇行に巻き込まれながらも、亡くなった母と彼が重なって見えてしまい放っておけないヒロイン・倉橋美冬。物語は二人の視点を交互に描写しながら進行するため、美冬側から見ると向井の行動の異常さが良く分かり、向井側に移るとその異常行動の説明…ウラビトに取り憑かれる体質から周囲の人間に避けられ続けた少年の捻くれた心が読み取れる。どう考えてもお近づきになりたくない向井に積極的にコミュニケーションを取ろうとする美冬も大概変人であるように思えるが、その行動も彼女が母親との関係を解消出来なかったことへの代替行為…美冬自身の救いのための行為だと暴いてしまう向井は相当に駄目な奴だなあ。向井が美冬拒絶するのも結局のところ自分もまた傷つきたくない…自分の心を救いたいがための予防線なのだけど。実は心の弱い二人の少年少女がそれに真っ正面から向かい合うことで強さを得る物語でもある。
そして弱い向井の心を叱咤したのが従姉である時江の鋼の心。貴女は本物の姐さんだ。ウラビトの正体とこの世界との関係が分かりしっかりと物語を締めくくっている。最後、向井はまるで別人だよな。それを一番分かっているのが向井の分身である小島なんだ、と思ったりした。