飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「創世の大工衆(デミウルゴス)」感想

創世の大工衆(デミウルゴス) (このライトノベルがすごい! 文庫)

創世の大工衆(デミウルゴス) (このライトノベルがすごい! 文庫)

〈あらすじ〉
デミウルゴス――かつて武力ではなく圧倒的な建築技術で戦乱から民を救った伝説の大工。
時は流れ、伝説に憧れながら、亜人の国で奴隷工として暮らす少年・カナトの前に、一人の少女・シアが現れる。
高度な建築技術を持ちながら、性格に超難アリの彼女こそデミウルゴスの伝説を継ぐ者だった。
そんな二人の元に、この国の女王からある建築の依頼が舞い込むのだが……。
第2回『このラノ』大賞優秀賞作家が贈る新感覚・建築ファンタジー!

大工×ファンタジー…だと!?
初めてこの作品のタイトルとあらすじを読んだ時は「この企画で大丈夫なの…?」と思ったが、良い意味で裏切ってくれました。いや、面白い!
亜人である獣耳族たちの国で唯一の人間であり、大工でもある少年カナトが、人々を圧倒的な建築技術で救い続けた伝説の大工衆『デミウルゴス』…その子孫シアと出逢ったことから物語は動き始める。
建築ファンタジー。それだけを聞くと地味な印象があるも、そこはファンタジー。しかも伝説の大工衆『デミウルゴス』が伝えるのは『魔工具』と呼ばれる魔法のような力を持つ道具を使用しての建築だ。腕に自信のあったカナトがシアの持つ『魔工具』の驚くべき力と、その道具をしっかり使いこなす建築知識に圧倒されて、ページを捲るごとに自信を喪失していく様は見ていて可哀想になるくらい。それでも熱い想いを「大工という仕事」に持つカナトは奮い立ち、プライドを捨ててシアに弟子入りして学ぶ姿勢が胸打たれる。だからこそ、排他的で何処か投げやりなシアの人と建築への向き合い方が間違っているとカナトは思うんだよなあ。シアの生き方は、物語中語られ続ける『デミウルゴス』の生き様とは遠く離れている。それくらい読み手にとっても『デミウルゴス』は伝説的な人物たちと印象付られる。
人間に迫害された歴史の持つ獣耳族からも尊敬される『デミウルゴス』…彼らの残した建築の『矛盾』と『違和感』が読み進めていくと解き明かされるのも、この物語の楽しいところ。『デミウルゴス』の願いを叶え再び救いをもたらすカナトと、真実を話して皆を受け入れたシア。この二人の大きな成長こそが、一番嬉しいことだったと思う。そんな二人の架け橋となってくれたママことセルマは幼い見た目とは違い、包容力のある素晴らしいキャラクターだった。
二人の『デミウルゴス』の物語は始まったばかり。出来れば世界を回る二人の旅を見てみたいなあ。