飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「放課後の魔法戦争〈アフタースクール・ブラックアーツ〉」感想

放課後の魔法戦争(アフタースクール・ブラックアーツ) (電撃文庫)

〈あらすじ〉
世界の裏側で暗躍する《魔術師(メイジ)》。魔法の力の源となる《魔晶石(クォーツ)》を求め、日夜抗争を繰り広げる彼らは、良質な《魔晶石》を産出する『工房』を賭けて、ある学園を舞台に《魔法戦争(ブラックアーツ)》を開始した。
《魔術師》の父を持ちながら魔術の才に恵まれず、また《魔術師》の世界を嫌い、日常に身を置いていた少年・三九郎は、幼馴染みの少女・ねねこと共にその『戦争』に巻き込まれてしまう。
かつての友や、本性を表した教師が敵に回る中、果たして生き残る道はあるのか?
そして何も知らない一般人のねねこを守り切ることが出来るか!?
野望と陰謀に満ちた、学園魔法バトルロイヤルが幕を開ける!!

鈴木鈴さんの作品だから、魔法バトルモノでも変化球を投げてくると思ったが、ある意味意外なことに直球の展開でした。しかしそれが悪いのか、と言うとそんなことはなく次々現れる癖の強い『魔法師』たちが物語を盛り上げ、楽しませてくれる。

希代の天才魔法師の息子であるにも関わらず、魔法の才能に一切恵まれなかった三九郎。自分を落ちこぼれと蔑み、そしてあまりに身勝手な魔法師たちの言動に絶望した三九郎は、魔法師の世界に背を向け、幼なじみのねねこと過ごす平穏な日常に身を置く。しかし三九郎にとって大切な時間が打ち砕かれることになる。亡き父の遺言によって巻き起こる魔法師たちの相続争い。それぞれの魔法師工房を代表する新米たちによって争われる魔法バトルロイヤルに否応無く引きずり込まれるだけでなく、ねねこまでその標的になり、果たして『無能』の三九郎は彼女を守りながらこの戦争を生き延びることが出来るのか。

魔法師たちによる不条理なバトルロイヤル。そのルールにしても、あるいは魔法に関する設定にしても目を見張るものはあまりない。この物語で注視するべきところは「生き様」だ。三九郎とねねこ、そして魔法師たちの生き様。
己の欲望に何処までも正直に生きるのが魔法師という生き物。その枠から外れた三九郎は、ねねこを守るために自分がどうなっても構わないと実際に行動にまで出る少年。確かに魔法師としての才覚はないかもしれないが、人間としての在り方を示してくれる。またねねこにしても、大切な幼なじみのために全く三九郎と同じ想いでいる。この二人はベストカップルですよ。ねねこの友人である魔法師の華夜も魔法師であることができず、悩みながらも味方で居てくれるのが嬉しい。人としての軸をしっかり保つ三人の前に立ち塞がる歪んだ者たち。ルールの穴をつき、圧倒的な力で迫り来る強力で残忍な魔法師を前に絶望せずに抗い続ける人間の姿をぜひ見て欲しい。

そして魔法師たちにも日常がある。僅かな時間ではあるけれど、魔法師たちの日常は人をホッとさせる。それと同時にキャラクターへの親愛が生まれる。だから今回の終わりは正直に安堵できるものであった。あまりに綺麗な着地であったため、次回以降どう話を繋げて行くのかが非常に楽しみだ。