飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。7」感想

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。7 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。7 (ガガガ文庫)

〈あらすじ〉
京都への修学旅行を前に、どこか浮き足立つクラスの雰囲気。
文化祭以来、教室内でさらに微妙な立ち位置になった八幡だったが、最初から地位なんてないようなもんだしな、と我関せず。
ところが、奉仕部に持ちかけられた意外な人物からの「恋の相談」。
そこにはまた別の人物の思惑も重なって……。
旅行は一気に波乱の予感。複雑な気持ちが渦巻き、答えを出せないまま八幡たちは京都へ。
まちがっている青春模様は、まちがっているラブコメ=恋愛模様を生み出すのか。
TVアニメ化を直前にさらに盛り上がりを見せるシリーズ第7弾。

修学旅行。
それが心躍る楽しいイベントなのか、それとも陰鬱な気持ちになるイベントになるのか。それは学校生活での己の立ち位置によって変化する。
例えば僕の場合。
高校生活。仲の良いクラスメイトが数人いたが、それは「学校の教室」という閉じた空間だけでのお話。そこから抜け出てしまえば、特に何かが交錯する訳でもない。
はぐれものたちで組むことになった修学旅行のグループ。このグループは他のグループとは明白に違う、言ってみれば同盟関係のようなものだ。
しかしこの同盟関係は、担任の先生が放った一言によって脆くも崩れ去る。

「あ~、ごめん。先生、宿泊先のホテルの部屋ひとつ多く計算してた。だからひとグループ解散して他のグループに散らばって」

僕がこの担任を嫌いになった瞬間だった。嘘ついた。随分前から嫌いでした。
解散を迫られるグループ。何処が解散しなくてはいけないか、僕たちはもう分かっていた。教室のピリピリとした空気が、僕たちに命じてくる。
こうして僕たちの修学旅行における同盟関係は旅立つ前に終わった。無力な僕たちはバラバラにされて、それぞれ結束力のあるグループに放り込まれた。
その後どんな気分で修学旅行を過ごしたかは…想像にお任せします。

…嫌なことを思い出してしまった。そろそろ内容に入っていこう。

比企谷八幡の修学旅行はどうだっただろうか?
文化祭での出来事が燻る教室の中で、ある意味当然の結果、八幡とグループを組もうと考える人間は…この世界に舞い降りた天使戸塚以外は現れない。
しかし事態は変わる。奉仕部に舞い込んだ依頼。葉山の友人・戸部の告白を手助けすることになる。
そのお相手が海老名さん。この名前が挙がった途端、八幡でなくても分かることがある。絶対に振られる。これは予感ではなく、予言を上回る…確信だ。
そして同時に海老名さんからも依頼を受ける。バカなくらい考えに裏表のない戸部とは違って、海老名さんのお願いには含みがある。それを感じ取れない俺たちのひねくれぼっちではなかった。

この作品の感心するところは「修学旅行」という装置を1から10まで使おうとしているところだと思う。
この物語。修学旅行に出発するまでに、どれだけの時間が掛かっているだろうか。全ては修学旅行に出掛ける前での時間の中で、始まって、実は終わっていたのだと最後に気付くことになる。

何も考えていない戸部の行動が、「今」を狂わせようとしている。その「今」を大切にしたいと感じている者たちを動揺させている。
別に八幡はその「今」を大切にしたい者たちを助けるつもりも、あるいは戸部の想いを守りたかった訳では当然ない。
だけれども奉仕部として、あるいはそれを出来るのが自分しかいない…そう、文化祭の時と同じように…だから行動に出た。

でも。
それは八幡との「今」を想っている人には、辛い行動に見えた。
雪乃が、結衣が。八幡の行動を「嫌い」だという。合理的な決断をした八幡の姿をもどかしい目で見ていた。
その想いを知っていても、八幡という男はぶれない。揺るがない。歪まない。
八幡らしさが「今」の雪乃と結衣との関係を生み出したが、しかしそのままの八幡でいると、「今」の関係に何かしらの綻びが生じることになる。

八幡らしさを合理的に受け入れられる海老名さんとなら、確かに上手くいきそうに思える。が、そこにはいつまで経っても想いが宿らない気がしてならない。
それが分かっていて、全てを冗談にして流したのだろう。
心の奥底で失うことを恐れながらも、八幡はこれからも嘘を吐き続けるのか。
どんな八幡であろうとも、ここまで着いてきた読者は苦笑しながらも受け入れることが出来るに違いない。