飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「俺が生きる意味 1」感想

俺が生きる意味 1 (ガガガ文庫)

俺が生きる意味 1 (ガガガ文庫)

〈あらすじ〉
誰かを選ぶということは、選ばなかった誰かを犠牲にするということだ――。
ある日の放課後、高校生の斗和は、仲のよい2人のクラスメイトから同時に告白を受ける。
だが、平穏な日常は唐突に崩壊する。
突如として現れた“見えない壁”によって学校は外部と隔離され、生徒たちは“人喰いの化け物”が徘徊する学校に取り残されてしまう。
大切な人達を誰一人死なせたくないと、斗和は必死に抗うが――。
濃密なサスペンス演出が冴える衝撃のパニックバトル、ついに開演!!
この衝撃は心臓を抉る!!

『キミとは致命的なズレがある』で衝撃的デビューを果たした赤月カケヤさんが約二年振りにガガガ文庫に戻ってきた。
そして再び僕たちを鋭利な物語で斬り裂いてくれる。

学園一の美少女で明るい性格の萌由里。引っ込み思案で大人しい性格の寧々音。
仲の良い二人の女の子に同時に呼び出された斗和は、甘い期待を抱きながらも、片方の少女の想いを断らなくてはならない事態に悩んでいた。
しかしその悩みも直ぐに全く別のものに置き換わることになる。もっとずっと…質の悪いものに。
突如見えない壁によって閉ざされた学園。戸惑う少年少女たちに…異形の人喰いたちが襲い掛かる。
喰う者と喰われる者。人喰いの化物と、人間たちとの間に広がる絶望的な関係の溝。深淵は人の命を簡単に呑み込んでいく。

主人公の斗和は、人喰いから逃げ惑いながら命の選択を否応なく強いられることになる。手の届く者全員を助けたい。そんな斗和の想いは突きつけられる圧倒的なまでの現実の刃が切り捨ててしまう。命に優先順位をつけて、大切な存在を…萌由里と寧々音を助けるために、斗和は自分に出来る最大限の行動を取っていく。
誰も斗和を非難できない。あるいは冷徹に人の命を見捨てる決断をした者のことを。それでもその決断は、確かに人の心の中に痼りとなって残り続け、まるで転移する癌細胞のように絶望が全身を蝕もうと這い上がる。

仕方がない仕方がない仕方がない。
けれども命を散らそうとする側が、冷静にその「仕方がない」を受け入れられる訳がない。浮き彫りになる人の本性が、人喰いとは別の脅威となって生きようとする人間を傷付ける。その度に斗和の心は軋み上がり、悲鳴を轟かせる。

読者はただただ濁流のように押し寄せる展開に呑み込まれて読み進めていくことになる。その過程には様々な謎が散りばめられていて、未だ全容を窺うことは出来ない。
なぜ学園は閉鎖されてしまったのか?人喰いはどこからやってきたのだろうか?萌由里と寧々音の本当の関係とは?異能力とは?卓二はクズなのでどうでもいい。でもお前のクズさが操の命を奪うことになるのならば決して読者は許さない。

待ち構えていたラスト。
ある種の予感のようなものがあった。ろくな引っ張り方をしないだろうな、という。勿論、批難ではなく褒め言葉として。
読み終わって暫く経つのに、心臓の音が早鐘のようにバクバクと鳴り響く。早く続きが読みたい。