飼い犬にかまれ続けて

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「果てなき天のファタルシス」感想

果てなき天のファタルシス (星海社FICTIONS)

〈あらすじ〉
空が青い。なんて青いんだろう──。
正体不明の敵・ファタルに蹂躙され、滅びに向かう黄昏の世界。
人類に残された僅かな街の一つ、朧市では、少年少女までもが前線で命をかけて戦う。
記憶を失った主人公・大海八尋もまた、刀を手に、絶望的な戦いに身を投じてゆく。
全てが不確かであやふやで、失われてしまうものであるとしても──それでも、世界は美しい。
異才・十文字青が同人誌『BLACK PAST』に発表し、話題をさらった長編を加筆訂正し、解説を加えて星海社FICTIONS化。 解説・坂上秋成

突き抜けるような、青い空。その青は無限に広がり、世界を満たしている。
そう思ってしまうほど、この表紙と口絵の青の力は強い。少年少女たちの、青春の色。

記憶喪失の少年…八尋が主人公。記憶を失った状態で目覚めた八尋同様、読者もまたこの世界を知らない。訳も分からず、未知の世界に放り込まれた読者は、八尋と一緒にこの世界の在り方を学んで行くことになる。そして真っ白だった八尋の心が、徐々に黒く塗り潰されるのを感じる。

謎の敵ファタル。人類の敵ファタル。
異形の怪物たちと戦争状態にある世界で、記憶喪失になる前の八尋は学生をしながら軍属でもあり、突撃兵としてファタルと戦っていたという。八尋はピンと来ていないが、ここまで分かって読者はこの世界観と世界の危機を知る。
記憶を無くし、己の背景を失った八尋の心の中は最初、我々読者と同じように何処か他人事のようであった。それがクラスの少年少女の同志たちと交流するに連れ、変わって行く。人は人と触れ合うことで、自分自身を構築することが出来る…八尋の心を見ているとそう感じる。

命を賭けて戦い、しかしその戦いに意味を見出せず、何もない自分が消滅してしまうと本当に何も残らないことに恐怖して。
八尋は変わった。恋をして、他人を知って、他人を知りたくなって、そして自分が何者であるかを悩んで…人らしく己の感情をコントロール出来ずにもがく姿が心臓を鷲掴みにする。この巧みな心理描写は、実に十文字さんらしいと思う。

空の青さのように、清潔感のある心のままではいられない。世界観は装置に過ぎない。八尋の染まる想いを感じて、楽しんで欲しい。