飼い犬にかまれ続けて

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「氷の国のアマリリス」感想

氷の国のアマリリス (電撃文庫)

〈あらすじ〉
氷河期が訪れ、全ては氷の下に閉ざされた世界。
人類は『白雪姫』という冷凍睡眠施設で眠り続け、そして、それを守るロボットたちが小さな村を形成し、細々と地下での生活を続けていた。
副村長の少女ロボット・アマリリスは崩落事故による『白雪姫』の損傷や、年々パーツが劣化する村人たちのケアに心を砕いていた。
再び人と共に歩む未来のために。
しかしある時、村長の発した言葉に、彼女と仲間たちは戦慄する。
「――人類は滅亡すべきだと思う」

アマリリスの優しさ、村民の温もりに包まれて、僕は今泣きそうだ。
世界は氷によって閉ざされている。だというのに、この物語は降り注ぐ太陽の光のように温かいのだろう…!

この物語に登場するほとんどのキャラクターは人間ではない。
ロボット。機械の身体を持つ存在。
しかし彼等は無機質な動く『モノ』ではない。人間に負けないくらい豊かな感情表現を持ち、人間を想いながら悩み苦しんで『生き』ている。

ロボットだという説明が為されなければ、人間にしか思えない彼等は、存在意義と言える使命を背負っている。
凍てつく世界。
人はそこに住むことは出来ず、未来に希望を託して、地下深くに沈み、長い眠りについていた。
300人ほどの人間が眠る施設『白雪姫』を闊歩するのは少女の姿形をしたロボット・アマリリス…ロボットの村民たち。ロボットたちは施設の維持管理をしながら、人間を『ご主人様』と慕い、日々を送っていた。

平穏なロボットたちの日常。
物語の前半、そのアマリリスたちの穏やかな時間が丁寧に描かれている。このまま平和に時が過ぎて、アマリリスたちがにこにこ笑ったまま物語が終わりを迎えるような。そんな気さえしてしまうほど、ロボットたちの日常は、僕等が生きる世界以上に平穏なものであった。

急激に物語が加速するのは、中盤から。人間とロボットの関係。その真実が明るみに出てからだ。
無意識に尊い存在であると思い込んでいた人間『ご主人様』…その『ご主人様』ため、アマリリスたちは心を砕きながら、施設の維持管理のため、己のパーツを犠牲にして、寿命を削っている。

そう、全ては人間のために。
その信頼が揺らいだとしたら、ある意味で人間以上に心あるロボットたちはどうするだろうか?
悩むに決まっている。それも心を震わせるほど苦悩する。
「自分たちのために、人類を滅亡させる」その選択肢が、これまで仲間たち…村民たちと家族のように過ごしてきたアマリリスたちに、物語は唐突に優しさを破り捨て、冷酷な現実を突きつけられる。物語前半の優しい日常は、全てこの選択肢をより深刻なものであると読者に伝える装置として、猛威を振るう。

けれどもアマリリスは負けない。彼女は優しさも現実も冷酷ささえも受け入れて、新たな可能性を手繰り寄せる。それはアマリリスの温かい心があったからこそ見つけることの出来た共存の道だ。
その道がどんな未来に繋がっているのか?
それは必死になって可能性を切り開こうとするアマリリスと共に、この物語を読み進めなくては見ることは叶わない。
ただ言えるのは、この作品はひとつの物語として、美しいほど完成されている。是非、アマリリスという少女出逢うため、この美しい物語を読んで欲しい。