飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「魔女は世界に嫌われる」感想

魔女は世界に嫌われる (ガガガ文庫)

〈あらすじ〉
鍛冶職人の父親と幼い妹との3人で暮らす少年ネロの平穏な日々は、国王軍の襲撃により唐突に終わりを告げる。妹を連れて森へと逃げ込んだネロは、とある古城へたどり着く。そこで彼は、病の床に伏した魔女と、その娘・アーシェと出会った……。世界に忌み嫌われる魔女と、ネロとの間で交わされた約束。それは死んだ妹を生き返らせてもらうことを交換条件に、魔女の娘を安全な地へと護送することだった。魔女に恨みを持つ人々や魔獣、さらには魔女を捕まえようとする軍隊までも敵に回し、少年は魔女の娘と、寄る辺なき危険な旅に出る。

前作の『森の魔獣に花束を』もそうだったけれど、濃厚な世界観の描写がある訳ではないのに、背景が心地良く染み渡り、想像力を膨らませてくれる。小木さんの創り出す世界は、とても気持ちが良いんだ。

父親を目の前で殺され、重罪人の息子として兵士に追われることになった少年ネロ。幼い妹を連れ、ネロが逃げ込んだのは入って者が帰ってくることの出来ない恐ろしい森だった。妹を守り抜くため、森を駆けたネロは古城に住む魔女の母娘に出逢う。
かつて世界を支配していたもののやがて追い落とされ、人々から忌み嫌われることになった魔女。傷付きついには命を落としてしまった妹を蘇らせるため…魔女の娘アーシェを外の世界に連れ出すことになったネロであったが、追手の兵士たちが古城に迫っていた。重罪人の息子と魔女の娘。世界に嫌われている二人の少年少女は決して優しくなんかない外の世界に向かい、旅立つ。

平穏な日々は永遠に続くものではない。
それを知ることになったネロ、そしてアーシェ。二人はこれまで過ごしてきた穏やかな日常が嘘であったかのように、残酷な世界へと突き落とされることになる。
妹を守る。何があっても、絶対に。ネロの中の「妹を不安にさせないための言葉」が、しかし妹の命を奪う結果になった。妹が死んでしまったことは、仕方のないこと。そう思う人の方が多いだろうが、ネロはそういう性格の少年ではない。素直なネロは、何処までも自分を責め立てる。

そんな中でネロは出逢うことになる。
人々から嫌われ、疎まれ、恐れられる魔女に。命の灯火が消えかけている魔女ミドナは、ネロ同様、自分たちの平穏もまた失われようとしていることを知り、娘アーシェを旅立たせようとする。弱虫で泣き虫で甘えん坊のアーシェ。彼女の性格を見れば、ミドナがどれほどの愛情を持って娘に接してきたか分かる。アーシェがミドナの提案を断り、母と一緒にいることを選ぶこともまた分かる。

しかし時間がない。
アーシェを連れ出す運命の相手としてネロは相応しいのか。それを試してしまうのは冷酷なことではないと思う。いずれにしても、ネロはミドナの想いに応じるだけの力を示してくれた。魔法の剣を手にしたネロは、アーシェを守る覚悟を胸に…妹を蘇らせる魔法の力を手に入れるため、かつて魔女の王が君臨していた大地を目指す。

だがネロは直ぐに思い知ることになる。アーシェを守る覚悟はあったが、命のやり取りをする勇気を持っていなかったことに。正反対にネロを守るため、勇敢に立つアーシェの覚悟を痛感する。

自分たちは世界に嫌われている。
そのことを認識して、それでも世界を嫌いにならないようにする…あるいは自分を嫌いにならないようにしながら、二人は何処まで羽ばたき続けることが出来るのだろうか。自分たちにとっての優しい世界を取り戻す。二人の旅はまだ始まったばかりだ。