飼い犬にかまれ続けて

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「冥玉のアルメインI」感想

冥玉のアルメインI (ファミ通文庫)

〈あらすじ〉
母が国王に見初められ、フィンメルハウゼン王朝の一員となったアルメイン。
しかし母の死を知った十歳のある日、美しい長姉ヒルトルートとの出来事から王家のおぞましさを痛感し、宮殿を飛び出してしまう――。
それから八年、大陸中を放浪していたアルメインの前に、騎士として成長した妹ナリアが現れる。
やむを得ず一時宮殿に戻ることにしたアルメインだが、彼を迎えたのは、血に囚われた王家の昏く輝く"宿命"だった……!
タクティカルファンタジー開幕。

それほど多くの築地作品に触れてきた訳ではないけれど、ある意味「らしくない」作品だったのではないかと思う。
と、書くと「え?面白くないの?」と思われてしまうかもしれないが…いや最高に面白かったよ!築地さんは作品にコミカルな面を含める作品が多かっただけに、緊迫感があり、手に汗を握る展開だったこの作品に驚いた。

美しい母の再婚によってフィンメルハウゼン王国の皇子となったアルメイン。国王と血が繋がる子供たち…皇子皇女と同じように王位継承権を持つことになった幼きアルメインであるが、後ろ盾である母の死によって、歪んだ性癖を解き放つ姉ヒルトルートに支配されそうになったことを恐れ、王宮を出奔することになる。
それから8年後。各地を放浪し、かつての弱さを感じさせないまでに成長したアルメインは、幼き日、彼に忠誠を誓った妹ナリアに半ば強引に王宮へと連れ戻される。そこで再会した兄弟姉妹たちは、国王の死、長兄の死によって代王となっていたヒルトルートの「最期の言葉」を聞くことになる。曰く「アルメイン他、3名を代王とし、それ以外の者は王位継承権を放棄するものとする」…唖然とするアルメインであるが、そんな個人の想いなど蔑ろに、権力闘争は始まっていく。

人は誰しも他人の心の内を覗き見ることはできない。
一度は全てを捨てた少年アルメインが、再び王家の血の争いに巻き込まれることになる。しかしアルメインはただ巻き込まれることを嫌い、聡明な頭脳と鍛えた肉体を駆使して、腐ったこの国を変えるため、王座に就くことを誓う。
出戻りの皇子ゆえ、権力争いに置いてさほど重要視されないアルメインだったが、裏では魔導を扱う特殊な一族であり、専属のメイドでもあるカリーンと共に策謀を巡らせる。同じ代王である姉たちを追い落とすために…。

そんなアルメインの姿に不満と不安を覚えているのは、彼のために早々に王位継承権を捨て、騎士になったナリア。高潔な彼女が暗躍などを嫌うのは当然のことであるが、どうしてもアルメインが得意なことが裏工作であることから、活躍の場がなくその鬱憤を溜め込んでいく。更には妹としての立場も、アルメインにとっては父違いの実妹メーニカに奪われ、人懐っこい彼女を兄は可愛がり、ナリアは面白くない。
人間関係が上手く循環しているとは思えない状況の中で、それでも利害関係の一致を見ながら覇道を行こうとするアルメインに危うさを感じながらも、その道が続いて行くことを信じる他はない。

たった一言の核心が鋭利な刃物と同じように他人の命を奪い去る世界…常人には理解できない王宮の習わしが支配する空間の中で起こる権力争いこそ、この作品の見所。
猛毒を含んだ言葉の応酬。僅かでも後ろに下がれば容易に排斥されてしまう。それを忌み嫌っていたアルメインが、他人と他人の間を疑心暗鬼が跋扈する世界を生き抜くために知恵を絞って静寂な戦いを優勢に繰り広げる様は、ある意味で皮肉ともいえる。

信じられる人だけを信じるしかない。でも、その信じる相手が間違いであったら…一皮向けばそこに刃が、猛毒が仕込まれている人たちを相手に、どう立ち向かって行くのか。早く緊迫感溢れるこの物語の続きを読みたい。