飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「ぼくのゆうしゃ」感想

ぼくのゆうしゃ (富士見ファンタジア文庫)

〈あらすじ〉
兄さんの危篤を知り病院へ急ぐ途中、ぼくはトラックに撥ねられてしまった。
目を覚ましたぼくがいたのはファンタジーな異世界で、目の前には謎の浮遊型毛玉生物・ルウがて……。
「ルウはご主人の下僕です! そしてご主人は勇者ですぞ!」
「……ゆ、勇者?(声に出すと意外と恥ずかしかった!)」
勇者の役目――女神さまを眠りから覚ますため、ルウや道中で出会った"自称"大魔導師など、愉快な仲間を引き連れたぼくの旅路に待ち受けているものは――!?
想う強さが願いを叶える、超王道ライトファンタジー開幕!!
「おい勇者、俺の荷物持てや」「斬新な勇者の扱いだね!」

デビュー作の『マテリアルゴースト』以来の葵せきなさん作品。あれからもう七年も経つのか…七年あっという間で困る。
「超王道ライトファンタジー」の言葉通り、何の抵抗もなく読める分、対象年齢は中学生くらいを想定しているのかと。かつて黄金時代、富士見ファンタジア文庫が囲い込んでいた年齢層。何処か懐かしいと思うほどの王道作品だ。

憧れの兄は意識不明で入院。そして主人公の10歳の少年・トオルはトラックに跳ねられてしまう。そして目が覚めた時…そこは見知らぬ世界。突如現れた『使い魔』ルウによると、トオルは『勇者』に選ばれ、この異世界に召喚されたらしい。しかもその役割は魔王を倒すこと…ではなく、世界に平和をもたらす女神の元に行き、休息を取る彼女を起こすこと。まるで目覚まし時計のような役目を押し付けられたトオルであったが、訪れた村を魔物の集団が襲おうとしていた。

もはや設定に関して疑問が持てないほど明瞭。一定期間で眠りにつく女神を無理矢理起こし、各地で暴れる魔物を女神の魔法の加護によって追い払う。女神起こすことが出来るのが『勇者』という存在だ。常人を超える力を手に入れるが、基本的に魔物を倒すことが目的でも、また魔王が存在する訳でもないから『勇者』の力そのものは副次的なもの。とにかく分かりやすさに重きを置いた作品…あとがきにもあるが良い意味で「頭の中を空っぽにしてニヤニヤできる」物語になっている。

主人公トオルも非常に分かりやすい頑固な優等生であり、この世界で求められている『勇者』としての行動を逸脱して実に『勇者』らしい行動力を見せて人々を救おうと奔走する。綺麗事で終わらせず、しっかり最後までやり切ってみせるトオルの覚悟は相当なもので、10歳の男の子とは思えない勇気を胸に抱いている。今後も少年の勇気が物語を湧き立ててくれそうだ。