飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「ヴァンパイア・サマータイム」感想

ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫)

〈あらすじ〉
人間と吸血鬼が、昼と夜を分け合う世界。山森頼雅は両親が営むコンビニを手伝う高校生。夕方を迎えると毎日、自分と同じ蓮大付属に通う少女が紅茶を買っていく。それを冷蔵庫の奥から確認するのが彼の日課になっていた。そんなある日、その少女、冴原綾萌と出会い、吸血鬼も自分たちと同じ、いわゆる普通の高校生なのだと知る。普通に出会い、普通に惹かれ合う二人だが、夜の中で寄せ合う想いが彼らを悩ませていく……。
夏の夜を焦がすラブストーリー。

『耳狩りネルリシリーズ』は読んでない…というと、ネルリストが襲いかかってきそうで怖いのですが。いや、持ってるんですけどね、読めてないだけです。
『クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門』を読んだ時に、なるほどファンが声を上げる訳だと納得するほど物語の完成度が高かった。そして今回の『ヴァンパイア・サマータイム』も唸るほど上手く紡がれた青春劇だった。

日の当たる時間と、日の当たらない時間。
それぞれの時間に日常を持つ人間と吸血鬼。両親の経営するコンビニを手伝う山森頼雅には気になる女性がいた。夜の時間、コンビニにやってくる同じ高校の吸血鬼の少女。名前も知らない彼女と夜遊びの途中、偶然出会い、冴原綾芽という名前を知って、それから昼と夜、人間と吸血鬼の時間の狭間で二人は交流を深め…そして恋をしていく。

人間と吸血鬼が多少の偏見はありながらも、昼と夜それぞれの時間を支配し穏やかな日常を過ごしている。この世界観を読者に理解させるまでが非常に早く上手い。二つの種族が混じり合う時間はほんの僅かで、その時間を大切にし、別れた後、ヨリマサと冴原は互いを想いながら日常を過ごしては恋心を強めていく。相入れない存在という訳ではないから、恋することに倫理的な問題はない。ただ生きる時間が違う、そして吸血鬼は当然、その名の通り血を吸うが人を襲うことは滅多にない。

大きな違いといえば確かにそうなる。特に大人の見方からすれば。しかしそんなものは恋する少年少女には大したものではない。止められない、止まらない。冴原を求めて次第に夜の時間を生き始めるヨリマサに対して、冴原が欲したのは血。これは恋ではない、単なる食欲なのではないか。苦悩する彼女に絡みつく思いを吹き飛ばしたのは、ヨリマサのある意味当然すぎる言葉。そうだね、好きな相手の匂いも何も血でさえも好きになるのはおかしいことじゃない。それが恋なんだから。

ヨリマサと冴原。人間と吸血鬼。この二人を接近させた「良き友人」たちの存在を忘れてはいけない。特に影宮は二人の関係を面白いほど弄んで繋いでくれていた。本当に良いキャラクターだ。みんなが生きて、恋して、結ばれて行く。素敵な物語でした。