飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「百錬の覇王と聖約の戦乙女」感想

百錬の覇王と聖約の戦乙女 (HJ文庫)

〈あらすじ〉
戦乱の黎明世界「ユグドラシル」に迷い込んだ現代の少年、周防勇斗。弱肉強食、幾多の氏族が覇権を争うこの世界で、勇斗は現代知識を武器にわずか十六歳にして数千もの軍勢を率いる宗主にまで昇り詰めていた! 異世界で王になった少年と、盃の契りを結び彼に絶対の忠誠を誓う麗しき戦乙女たちが織りなす、痛快無双ファンタジー戦記、ここに開幕!!

「未来」の知識を持っていても「過去」で有効に使えるのか、という妄想をすることがある。僕が過去で未来の役立つ何かを提示したとしても、恐らく無駄に終わるだろう。答えは簡単。有効に使う能力がないからだ。この物語の主人公・勇斗は未来の知識を活かして戦乱をくぐり抜けていく。その力を「チート」と呼んで…果たしてそうなのだろうか?知識を有効に使う力は個人の資質ではないのだろうか。

幼馴染の美月と肝試しをした神社には「別世界に繋がる誘われる」という伝説があった。そして妖しい光に見た周防勇斗は、次の瞬間気がついた時、そこは見知らぬ世界とその住人たちであった。
二年の時が経ち、16歳になった勇斗は何も出来ないただの少年から『ユグドラシル』と呼ばれるこの世界のひとつの族の宗主となっていた。偉人たちの遺した知識を存分に使い、多くの戦場を駆け、英雄になった勇斗は元の世界・時代に戻る術を探しながら、常人ではあり得ない力を持つ少女たちと共に覇道を征く。

異世界召喚モノに王道戦記を加えた作品。だが、物語が本格的に開始されるのは勇斗が何も知らずに別世界(別の時代)にやってきた二年後から描き出すところは新鮮。自分が生きてきた時代とは全く違う考えを持つ人々しかいない世界のことをある程度理解し、自分の持つ倫理観との大きなズレを感じながらも国を治め、人を守るため、人を殺めるため、戦場に立つ勇斗の苦悩が伝わってくる。

そんな勇斗の心を救っているのが、彼を慕うフェリシアやジークルーネといった可愛いヒロインたち。温和なフェリシアに忠犬ルーネのコンビは性格が正反対のこともあって意見の対立が多いが、こと勇斗を支持する件に関してはこれでもかと同調して大騒ぎする。確かにこれだけ可愛い女の子たちに「お兄様」やら「父上」やらと慕われるのは悪い気分はしない…どころか増長してもおかしくない気分の良さを味わいそうである。そしてもうひとり、元の世界にいる美月との「交信」だ。これだけ可愛い子に囲まれながらも男の本能に従って暴走しないのは、美月を想っているから。携帯機器を使って元の世界と連絡が取れる場所があることから、この辺りの謎が元の世界に戻れる手がかりになるのかな。

しかし元の世界に戻るということは、苦楽を共にした一族を…家族と別れることに繋がる。それもまた勇斗の悩み。更に結婚話もドカドカ舞い込んできて宗主として男として悩みが増え続ける。物語は幕開けしたばかり。最後まで魅せて欲しい。