飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「止まらないで自転車乙女」感想

止まらないで自転車乙女 (スーパーダッシュ文庫)

〈あらすじ〉
「誰だって自転車くらい乗れるのは当たり前」高校生・秋山陸の思い込みを木っ端みじんにしたのは、名門女子校『白輪館女学院』中等部に通うお嬢様たちだった。
乗れないのに情熱的で自転車好きの千晶。高飛車で自転車を見下す沙羅。男性&自転車恐怖症の綾音。そんな一癖も二癖もある少女たちのコーチとなった陸の七転八倒が始まる。
止まるな、漕げ、そうしないと自転車は転けるんだ――ボーイミーツガール・ウィズ・サイクル、ここに開幕!

初めて自転車に乗れた時、貴方はどんなことを思っただろうか?
近くのコンビニに行くにも車を走らせ、たまに自転車に乗ったかと思うと電動式タイプ。軽くペダルを踏み込むだけでスイスイ前に進んで行く。そんな生活をしている僕に、自転車が乗れた時の、あの瞬間の感動と爽快感を思い出させてくれた。

進学校に入学した春。秋山陸は受験期間中乗ることのなかったロードバイクを久しぶりに動かしたものの整備不良のためパンクしてしまう。そこに通りかかったひとりの女子中学生。「自転車が必修科目にある」という変わった授業のあるお嬢様学校『白輪館女学院』に通う中学一年生の三浦千晶は、陸の自転車のパンクを感心するほど高い知識を披露しながら治す。その場は別れた陸と千晶であったが、幼馴染の直子の母親であり『白輪館女学院』の教員でのある琴子に誘われ、「自転車に乗れない新一年生」のコーチを務めることになる。自転車に乗れない中学生の存在に驚く陸だったが、そのレッスンに何故か千晶がいるのだった。こうして自転車に乗れない問題児たちと陸の特別レッスンが始まる。

自転車ラノベ、ということで「専門的な言葉が飛び交いそう」なイメージを抱いていたがそんなことはなく、題材も初歩も初歩。まずは自転車に乗ることから始まる。

必須科目に自転車があるにも関わらず、様々な事情によってこれまで自転車に接する機会のなかった三人のピカピカの女子中学生たち。まさに「お嬢様!」といった感じの高飛車な沙羅に、人見知りで男性恐怖症の綾音、そして自転車が大好きなのに厳しい家庭のせいで自転車に乗ることの出来なかった元気印の千晶。特に千晶の「好きなことを真っ直ぐ好き」と言える姿勢にはぐっと心を掴まれるものがある。反して陸の指導に反発する沙羅と綾音の心をどう掴んでいくのかも注目して読む。

自転車は練習する内に身体が自然と覚えて乗れるようになるので、確かに人に教えるとなるとどう指導して良いのか分からない。それに悩む陸が良き理解者である幼馴染の直子と共に解決していき、三人娘の指導に反映させていく流れは良い。
陸の一生懸命なコーチを受けて次第に態度を軟化させていく沙羅と綾音。反発続きだった二人が陸に懐くようになってからがある意味本番。元気いっぱい頑張り続ける千晶の魅力は物語を通して目にすることになるが、この二人を可愛いと思うのは後半からだ。陸と三人がようやく向き合って初めて「スタート」を切る。

ペダルの一漕ぎ一漕ぎが、努力の成果。自転車に乗れるようになった彼女たちが挑戦する試練。長い道程を走破して、逆境を跳ね返し、無事学校に辿り着けるのだろうか。その先にある喜びを目指し、少女たちは笑顔を浮かべて自転車を走らせる。