飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。8」感想

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。8 イラスト集付き限定特装版 (ガガガ文庫 わ 3-13)

〈あらすじ〉
後味の悪さを残した修学旅行を終え、日常に戻った奉仕部。そんな折、奉仕部に生徒会長選挙に関わる依頼が持ち込まれる。お互いのやり方を認められないまま、奉仕部の三人はそれぞれが別のやり方で依頼に対することに。分かっていた。この関係はいつまでも続かないことも、自分が変わることができないことも。「君のやり方では、本当に助けたい誰かに出会ったとき、助けることができないよ」その行動は誰のために……。それでも自分のやり方を貫き、もがこうとする“彼”は、大きな失敗を犯してしまう――。

終わらない時間はない。
変わらない関係はない。
そのことを強く意識したのは、中学生の時だった。中学二年生。クラス編成によって親しい友人たちとは別になり、人見知りという言い訳にもならない言葉に逃げていた僕は、当然の如く新しいクラスで新しい人間関係を構築することはなかった。

早くこの一年が終わって欲しい。そうすれば今よりもマシな未来が待っているはずだから。このくだらない時間を早く消費しきって欲しい、と教室の窓から外を眺めながら強く思ったものだ。

一年が経ち、親しい友人たちと再び同じクラスになり、また一年が過ぎ、卒業して。
高校生になった僕は周囲を見た。中学時代の「親しい」友人たちは、新しい関係を築いて、僕のもとから消えて行った。そのことがショックだった。だから高校時代、積極的に友人を作ろうとして、上手くいくはずもなく、空回りする内に自分が惨めになって…それで全てを諦めた。自分のことながら笑いたくなるほど、乾いた高校三年間だったと思う。

そんな僕に声をかけてくれた大学時代の友人たちには感謝している。たぶんそのまま過ぎ行く時間を見送るだけ、新たな関係を築くのを放棄したまま人生を送り続けていたら、ろくでもない考えの人間に成り果てていただろう。大学時代という優しい時間が終わりを告げ、変わってしまった人間関係の中でも、未だに繋がりを持てているのが嬉しい。

前置きが長くなってしまった。
さて、八幡たちの話をしよう。

終わらない時間はない。その通りだ。
変わらない関係はない。間違いない。
しかし「人」はどうなるのだろうか?
変わろうとする人。変わりたくない人。変わり続ける人。変わりたくても変われない人。

「時間」と「関係」の影響を受けて、人は様々な反応をみせる。反応しないこともひとつの反応だ。

比企谷八幡。揺るぎない彼の行動を、最初の内は褒め称えた。良く言ってくれた、俺たちが言えなかったことを、良く発してくれた、と。

でも、八幡を見つめ続ける人々…読者もまた時間と共にカタチを変えていく。八幡という人間を知れば知るほど、「このままで良いのだろうか…」という思いに駆られる。それを誰よりも感じているのは、読者ではなく、雪ノ下雪乃であり、由比ヶ浜結衣だった。

修学旅行を終えた『奉仕部』の関係に横たわる、言葉に表せない不満。望まぬ形で生徒会長に立候補させられた葉山の後輩・一色いろはの依頼を受けた『奉仕部』は、彼女を生徒会長にさせないため、動き出す。しかし文化祭、修学旅行と八幡のとってきた行動を否定する雪乃は、八幡とは違う方法で今回の問題を「解決」しようとする。また結衣も『奉仕部』がこのままバラバラになることを恐れて、行動に移る中、八幡はそんな彼女たちを見て何を想うのか。

そもそも『奉仕部』と関係とは何だったのかを思い起こす。雪乃がいて、八幡が連れてこられて、結衣がやってきた。この三人、誰を欠いても『奉仕部』という関係は大きく変わってしまう。だが何度も言っている通り、終わらない時間はなく、変わらない関係はない。『奉仕部』で過ごす時間はいずれ終わり、『奉仕部』という関係は長くない内に終わる。それは確定事項。それでも目を逸らして今の関係が永遠に続くことを夢想してしまうのは、人間の弱さであり、ある種、自分自身を守る人間の強さでもあると感じる。

自分という存在を強く固定しながら、流れゆく時間と関係を見つめ続ける八幡。彼は本当に変わっていないのだろうか? 揺るぎない孤高を貫こうとしているのだろうか?

そんなことはない。八幡は変わる。変わり続けている。でも彼の中にある「芯」は変わっていない。だからこそ、八幡は否定するだろうが、人を惹きつけることができるのだ。変わろうとしない人間に、今回のような結論は導けない。変わろうとしない人、変われない人は…人を変えられないのだから。

ふと思い返さなければならない。
では雪ノ下雪乃という女の子は?
陽乃という人間関係を含め、特殊な環境にいる雪乃。八幡の行動を否定しながらも、否定した行動と同じように見える行動に走った雪乃の真意。理解していると思い込んでいた関係。結衣が望む『奉仕部』の関係は、やはり変わろうとする時の流れから逃れることはできないのか。

終わらない時間はない。
だから大切にしたい

変わらない関係はない。
だから大事にしたい。

そう思える頃には全てが本当に終わっている。後悔することなく、三人には青春を謳歌して欲しいと心の底から望む。