飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「黙示録アリス」感想

黙示録アリス (富士見ファンタジア文庫)

〈あらすじ〉
──さあみなさん、少女を殺して世界を救いましょう!
 世界は壊れてしまった。それは少女だけがかかる、最悪の
病気《迷宮病》のせいで。
 だから生徒たちは授業を受ける。少女を殺すための授業を。
魔法を覚え、迷宮のマップを把握し、チームを結成し、少女の
弱点を学び……。タイムリミットは六時間。それまでに少女を
殺せなければ、世界は破滅する――のだが。
「世界とかまるで興味ないんで勘弁してください。正直暑苦しいですよ」
そう言い放つ史上最悪の主人公とともに。疾走する
魔法と青春。迷宮突破型学園ファンタジー、ここに開幕!

非常に伝えにくい感覚ではあるのだけど、鏡貴也さんの文体は「ライトノベル」らしい。エンターテイメント性と読みやすさを追求した文章というか。例えばこれをいわゆる「一般文芸」の舞台に持ち出しても理解されないと思う。ある意味、人を選ぶ文章だと感じる。
そんな鏡さんが描く「ダンジョン系」…だが、鏡さんの味が出ていてとても良かった。

迷宮病。少女だけがかかる奇妙な病気。そして恐ろしい病気。
発症した少女を中心に巨大な異次元迷宮を構築し、人を捕らえ、消し去ってしまう。一定時間迷宮を放置すると、現実世界に永久に迷宮として居座り続ける『永久迷宮』と化す。そうなる前に、迷宮内にいる原因…迷宮病にかかった少女を殺さなくてはならない。全ては人類を救うために…。
迷宮病によって妹を失った真之介は、迷宮から人類が拾い上げた「魔法」を使い、迷宮に侵入し迷宮病の少女を殺す特殊な学校に転入する。他人を馬鹿にし、他人を嘲笑いながら生きる「クズ」を演じる真之介は、妹を助け出すため金と力を求めて行く。

軽快に刻まれる鏡さんの文章が、少女がダンジョン…異次元迷宮を作り出す異常な世界を描き出す。人類を救うために、少女を殺す殺人者にならなくてはならない少年・真之介という強烈なキャラクターの見せ方が上手い。どの発言を読んでも好感などとても抱きようがないのに、人を惹きつける魅力ある個性。この男には真の裏がある。そう感じさせながら、『クズ野郎』で居続ける真之介の正体を見る。

また本来なら単なる脇役で終わりそうなキャラクターにしても、個性だけでなくキチンと役割が与えられ、物語という盤上に配置されているのが見事と言うしかない。足を踏み入れれば生きて帰れないかもしれない高難易度の迷宮。尋常ならざる魔法の力を行使しても対抗できない巨大な敵。人類を救うなんておこがましい、とそれぞれの目的を胸に、迷宮に潜る少年少女たちはある意味、美しい。

まずは世界観のお披露目、そして真之介の置かれる状況の一端を見て、今後の展開の期待感が増す。