飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「魔女は月出づるところに眠る 上巻 ―ローブを纏って生まれた少女―」感想

魔女は月出づるところに眠る 上巻 ―ローブを纏って生まれた少女― (電撃文庫)

〈あらすじ〉
 優しい両親や大切な友達に囲まれ、ごく普通の生活を送ってきた小学生・東島恵奈はある日、ボランティアで訪れた町外れの洋館に住む善良な魔女アボンドから魔法の存在について教えられ、弟子入りする事になる。だがそれは、魔女の“祖”復活を巡る争いに恵奈を巻き込む運命の始まりだった。暗躍する悪い魔女、魂を喰らう悪魔、取り憑かれる親友、そして見境無く魔女を狩る狼。平和な日常は、少しずつ蝕まれていく……!

佐藤ケイさんはデビュー以来、ずっと追いかけ続けている作家で作品一覧を見ると時の流れを感じる。物語にしっかり「起承転結」を示し、分かりやすい文章で構成する筆力には毎度のことながら感服する。

小学六年生の女の子・東島恵奈は、敬老の日のボランティア活動で訪れた年老いた洋館の主・アボンドとの出会いによって、その運命を大きく変えることになる。魔女。アボンドはそう呼ばれる存在…『あちら側』の不思議な力を、『こちら側』に喚び出すことのできる魔女であるアボンドに、好奇心から弟子入りすることになった恵奈であったが、時を同じくして、恵奈の親友・里弥とさくらに『悪魔』の魔の手と、強力な力を持つ邪悪な魔女を復活させようとする勢力の姿が襲い掛かる。

馴染み深いコメディ要素満載の物語ではなく、『魔女』を題材にした血生臭いシリアスな展開の物語になっている。様々な思惑のもと、魔女としての才能を見込まれた女の子・恵奈は、純粋な興味から魔法という不可思議な力を習得しようとするが、過酷な運命がそうしようとするのか、彼女の親友を巻き込み、魔女と悪魔、人の生き死に関わる事態に発展していくことになる。

主人公の恵奈は本当に「普通の女の子」だ。その「普通」が崩壊していく様を目撃することになるのはある種、衝撃的である。容赦のない悪魔の行動によって、日常が奪われ、魔女たちの思惑によって、平穏が奪われていく。変質する日常を感じながら、当初想像していた魔女という存在から遠ざかり、親友のため、それでも魔女になろうと努力する少女たちの姿が実に美しい作品である。