飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「後宮楽園球場 ハレムリーグ・ベースボール」感想

後宮楽園球場 ハレムリーグ・ベースボール (集英社スーパーダッシュ文庫)

〈あらすじ〉
大白日(セリカン)帝国――野球の巡業で身を立てていた白日(セリカン)人が興(おこ)した国。その皇帝(スルタン)暗殺の野望を胸に秘める少年・海功(カユク)は宮廷に入りこむため、少女に扮(ふん)して後宮(ハレム)の一員となる。新入り宮女として勤務しはじめた彼が見たものは、帝国中から集められた美少女たちが、野球で皇帝の寵愛(ちょうあい)を争う熱狂の楽園、すなわちハレムリーグであった。野球少年の海功(カユク)もハレムリーグに巻き込まれていき――!?

ファミ通文庫で活躍している石川博品さんが集英社スーパーダッシュ文庫に登場!
『ネルリシリーズ』は読んでいないけれど、『クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門 』『ヴァンパイア・サマータイム』と読者を物語に没頭させる確かな筆力の持ち主であることは良く分かっていた。期待通りの面白さに満足しています。

たったひとりの男…皇帝のために築かれた女たちの園、後宮。貧民街の浮浪児である少年・海功は、宦官長を脅すことに成功し、綺麗な顔立ちを利用して後宮に潜り込む。全ては金のために…と言う海功であったが、彼には皇帝に近づくある理由が存在した。性別を偽り、名を『香燻』と変え、一番の下っ端として後宮での生活が始めた香燻は面倒見の良い蒔羅に世話を焼かれ、粗暴な蜜芍と衝突する。そして香燻は知る。特殊な後宮という環境の中で行われ、活躍すれば出世に繋がる女だけの『野球』が繰り広げられていることを。

野球…だと…!?
『後宮楽園球場』というタイトルを見た時に、「まさか…?」と思ったがそのまさかの通り、題材は『野球』だ。スポーツものはやったことがない人にとっては先入観もあって、非常にイメージがしにくい題材ではある。しかし面白いは『野球』と聞いて現代を舞台にしているのかと想像していたらそうではなく、そこは何処かの世界の、ハーレム…後宮。しかもプレイするのはゴツい男たちではなく、皇帝と夜を伴にするため皇族が熱狂する野球を足掛かりに出世しようと切磋琢磨する魅力的な女性たち。大衆が目にする『野球』というスポーツと、民が目にすることのできない『後宮』という未知の世界との掛け合わせが絶妙で、唸るばかり。

そんな世界に飛び込んだのは、女に成りすました香燻。ある目的のために皇帝に近付かなくてはならない香燻は選んだ方法は、後宮で出世して皇帝と寝屋を伴にすること。仄暗い感情を秘め、後宮での生活をスタートさせた香燻が目にするのは、美を追求し、惜しげも無く裸体を晒す美女・美少女たちの姿。いくら感情を殺そうとも、男としての部分が反応してしまい、ピンチになりそうになることが幾度もあり、ある意味しょうもないこの窮地が読んでいて楽しかったりする。特に香燻の世話役である蒔羅の姉のような柔らかさ、誰にでも喧嘩腰で突っかかる乱暴者の蜜芍がふとした拍子に見せる優しさ等、香燻の男心だけでなく、人としての生き方を揺さぶるヒロインの存在が魅力を放つ。

野球の面白さに引き込まれ、少女たちの優しさに包まれ、香燻の中にある覚悟はいかなる方向へと進んでいくのか? 波立つ香燻の心のうねりは必ず読者の胸を打つことだろう。