飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「アーク9 1.死の天使」感想

アーク9 1 死の天使 (講談社ラノベ文庫)

アーク9 1 死の天使 (講談社ラノベ文庫)

〈あらすじ〉
その日、人類は世界の半分を失った�黒い霧�の脅威を防ぐために建造された巨大な�壁�により地球は分断され、全人口の約半数が故郷を奪われた。
難民となった人々を収容するために建築された人工都市�箱船�は、今やひとつの国家として、人々の新たな故郷となっている。
そのひとつ、九番目の�箱船�で探偵事務所を営む数少ない日本人の生き残り、紫堂縁。
彼はあらゆる銃火器を使いこなし、全身の「気」を発動する紫堂流忍術の使い手。
そんな彼に窃盗容疑の男を捕らえる簡単な仕事が舞い込んだ。しかし男は縁の前でその真の正体を現す。
そして忍び寄る巨大な陰謀と組織。果たして縁に勝機はあるのか!?

俺たちの!ヤスケンが!戻ってきたっ!
実に六年半ぶりの新作!
『ライトノベル』の名が定着する以前からこの世界にどっぷり使っていた同士たちの歓喜の声が聞こえるぜ。ヤスケンの帰還は俺たちの魂を震わせる力がある。
ヤスケン?誰それ?という読み手の方も、新生ヤスケンに触れて同じように熱い想いに胸を焦がして欲しい。

『黒い霧』に世界の一部が呑まれ、人類はその人口を半分にまで減らした。巨大な壁を建造し『黒い霧』を押し込めたものの、帰る場所を失った多くの人たちは『箱船〈アーク〉』と呼ばれる大小様々な都市を造り上げ暮らしていた。
9番目の『箱船』で探偵業を営む紫堂縁は、数少ない生粋の日本人。幼馴染で助手のレベッカと共に受けた依頼は窃盗の罪で逃げ回る男を病気の母親の元に連れ帰る簡単な内容だった。しかし蓋を開けてみると事態は一変。『黒い霧』発生以降、人類を襲う災厄のひとつであり、人を理性なき凶暴な存在へと誘う『変異』が絡む巨大な陰謀に巻き込まれていく。

『黒い霧』『変異』など読者の心を踊らせる設定が並ぶ。正直、僕もこの設定を読んだ途端、実際目の辺りにしている登場人物たちの絶望感を無視してワクワクしてしまった。また『箱船』という人々を救う名に相応しくないほど、『箱船』に住む人々の考え方は腐敗していて、何処を見ても綺麗なものなどない。
そんな『箱船』で探偵として暮らす縁の実力は『探偵』の枠を超える強力なもの。片手に銃を握り、もう片方の手に小太刀あるいは苦無を握り、気と呼ばれる生命力を使い超常的な現象を引き起こす縁の姿は現代の忍者だ。恐るべき力を持って人々を襲う『変異』の怪物をも上回る術を操る縁はちょっと卑怯なのではないかと思うほど。しかし敵は『変異』だけではなく、探偵として重要な情報を手にいれてしまった縁を葬り去ろうと人外の力を持つ者を送り込んでくる。そして起こるのが超常的なバトル。そう俺たちが楽しみにしていたヤスケンの濃厚なバトル描写が読める!

人外バトルを繰り広げ、闇をも呑み込む黒い陰謀に巻き込まれる中で、縁のことを心配しストレートな物言いで彼を打ち負かすレベッカ。縁から見て、ヒロインというよりも幼馴染の「助手」ポジションが強いせいか、中盤から登場する依頼人ヒルデガルドの方に惹かれる要素が多い気がする。予想はしていたけれど、エスメラルダも加わってきて、お姉さん率の高いお話になりそうです。

強力な力を持ちながら、事件に挑むも敵の方が上手のことが多い。任務こそ達成したものの、探偵として、日本人の血を受け継ぐ者として未熟な面もある。それを認識して歯噛みする縁の姿を見ていると、読んでるこっちも悔しくなってくる。また縁が抱える問題は多い。事件の全容を知った訳ではなく、レベッカの身体を蝕む『変異』の問題もある。
まずは始まりの一章。これからどんどん面白くなっていくに違いない。