飼い犬にかまれ続けて

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「絶深海のソラリス」感想

絶深海のソラリス (MF文庫J)

〈あらすじ〉
《水使い》それは22世紀の人類が生み出した"深海踏破の異能"――。山城ミナトは水使いの訓練生を指導する教官として、母校であるアカデミーに帰ってきた。そんな彼の教え子は二人。落ちこぼれでもマイペースな幼馴染の星野ナツカと、性格に難はあるが水使いとして至宝の才能を生まれ持つクロエ=ナイトレイ。時には反発を見せながらも前に進もうとする彼女たちを見て、ミナトは教官であることに楽しみを感じ始めていた。しかし、深海に沈む都市に"S.O.S"が鳴り響いた時――平和だったミナトの日常は終わりを告げる。【深海】×【絶望】 戦慄の本格パニックノベルが登場。――この《結末》を、僕達はまだ、知らない。

四年近く前になるが、サイパン島で体験スキューバダイビングをしたことがある。諸先輩方に引っ張られる形での初ダイビングは、まず水深5メートルから始まった。空から降り注ぐ光を感じながら潜る海は心地良かった。それからダイビングポイントを変え、2回目の挑戦。水深は12メートルほど。しかし印象はガラリと変わり光は少なくなり、ゴツゴツとした岩場の洞窟を潜る際の閉塞感、そしてここに置いていかれたらどうなってしまうのか、視界が良い訳ではない、何か恐ろしい海洋生物でも出てきたらどう対処すれば?
小心者の僕は不安で押しつぶされそうになった。不安は人を疲労させる。またもポイントと潜る深度を変えて3度目となったが、僕はその前にギブアップした。あの閉塞感は…僕はただ恐ろしかった。光も届かない深海。そこにはどれほどの不安と絶望が待っているのだろうか…?

百年前に発生した『大海害』によってその領土を失った日本。かつて東京と呼ばれていた場所に浮かぶ人工島には、深海に潜ることができ、異能を備えた『水使い』の訓練学校アカデミーがある。アカデミーの卒業生であるミナトは、一年ぶりに戻ってきた人工島で一つ年下の幼馴染の少女ナツカと再会する。人当たりの良いノンビリした性格のナツカであるが、物覚えが悪く、アカデミーの劣等生として扱われていた正反対に、ミナトの教え子となったクロエは成績優秀、眉目秀麗、おまけに家柄も良いという天才として知られていたが、天才ゆえの孤独…協調性に欠けている。ナツカとクロエ、二人を引き合わせることが互いにとってプラスになると判断したミナト。そしてミナトは教え子たちを連れて、深海遠征に出ることになるのだが、そこでキャッチしたSOS信号が、彼等を絶望の淵に叩き起こすことになる。

深海に存在する生きた鉱物ソラリスによって、一部の人類が深海でも生存できる力を手に入れた世界。『水使い』と呼ばれる彼等は深海での活動だけではなく、常識では考えられない異能の力を振るうことさえもできる。

物語前半は『水使い』の力を教える主人公ミナトと、卒業が危ぶまれるおっとりマイペースな幼馴染のナツカ、そして傲慢だけど実は素直な可愛い天才少女クロエの交流が描かれていく。この三人の人間関係の中で読者もまたこの世界の在り方知っていくことになり、また物語全体を折り返すまではこれといった危機感のない学園生活が展開されるため、後半の「惨劇」がこの時点では予想が出来ない。

正直、あらすじと帯の文句がなければ、海を舞台にした学園異能モノとして処理していたことだろう。あらすじを読んでいるのと、そうでないのではガラリと印象の変わる作品だと思う。物語前半の穏やかな時間がある分、後半の「絶望感」が際立つ。

SOS信号のキャッチ。深海1500メートルに存在する謎の研究施設。そこを徘徊する異形のクリーチャーども。無慈悲に追い詰めてくる「死」が彼等の心と身体を蝕んでいいく。絶望に抗う彼等の未来は、光は、一体何処にあるのか?
ページを捲る手が止まらなくなる。この絶望感は、こんなにも後味が悪いのに…どうしてこんなにも心地が良いのだろうか…。