飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「陸と千星~世界を配る少年と別荘の少女」感想

陸と千星~世界を配る少年と別荘の少女 (ファミ通文庫)

〈あらすじ〉
両親の離婚話に立ちすくむ千星。明るく笑ってみせることで、壊れそうな家の空気を辛うじて保ってきた。けれど本当は、3人で一緒にいたいと、素直に泣ければよかったのだろうか……。新聞配達のアルバイトを続ける陸。母は家を空けたまま帰らず、生活のために必要だった。ただ絵を描いていたい、そんな願いも叶わない。それを恨んでも憎んでもいないけれど、今まで自分は笑ったことなどあったのだろうか――。そんなふたりが、出会う。切なく繊細な一夏の物語。

野村美月さん新作連続刊行を締めくくるのは、少年と少女、幼い二人の一夏の恋の物語。昨日まで知りもしなかったヒトを好きになる。人間ってほんと不思議で、面白い生き物だとおもいます。

裕福な家庭に生まれながら、折り合いの悪い両親の離婚問題から遠ざけられるように、別荘のある田舎へやってきた中学三年生の千星。三人一緒に暮らしたいと望む千星の想いを無視するような便りを寄越す両親に気持ちが暗くなる。後ろ向きになってしまう日々を過ごす千星は、ある少年と出会う。新聞配達のアルバイトをする、自分と同じ年頃の無口な少年・陸。彼もまた家族に問題を抱え、絵を描くことだけを安らぎに生きていた。陸と千星。互いのことを何も知らず、接点は陸が千星の別荘に新聞を届ける僅かな時間。それでも二人は互いを意識し合い…そして恋をする。

読み切り作品なので、陸と千星、夏の短い時間、二人の恋の話はこの一冊で区切りを付けている。

まるで立場の違う二人。身分違い…なんて時代錯誤なことはない。それでも片方は都会からやってきた育ちの良い女の子であり、もうひとりはほとんど家に帰ってこないヒステリックな母親だけが家族の勤労少年。互いが互いを素直に「好き」と言えない、思うことのできない、言い訳という名の壁。恋し合っているのに、二人に与えられている時間は少しなのに、言い訳を理由にしてなかなか前に進もうとしない二人の関係に苛立ちを覚えず、微笑ましく見守ってしまうのは僕が歳を取ったからに違いない…いや、そうでもないのかな?(笑)

人が恋をするのは一瞬の出来事であり、気持ちが繋がるのもまた一瞬の出来事なのだろう。陸と千星は恋をして、想いを繋げることが出来た一瞬は、ある種の奇跡なのではないかと思う。奇跡を手にした少年と少女が幸せになることを願って……。