飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「ひとつ海のパラスアテナ」感想

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)

〈あらすじ〉
すべての『陸』は、水底(みなぞこ)に沈んだ。透き通る蒼い海と、紺碧の空。世界の全てを二つの青が覆う時代、『アフター』。
セイラー服を着て『海の男』として生きるボクは、両親の形見・愛船パラス号で大海を渡り荷物を届ける『メッセンジャー』として暮らしていた。そんなボクに、この大海原は気兼ねなくとびきりの『不運』を与えてくる。
 ――『白い嵐』。
無情にも襲いかかる自然の猛威。それは、海に浮かぶ全てを破壊した。
愛船パラス号を失い、ボクが流れ着いたのは孤立無援の浮島。食糧も、水も、衣服も、何も無い。あるのは、ただただ広がる『青』。ここに、助けは来るのか、それとも―― それは、い つ終わるとも分からない。ボクの『生きるための戦い』。

もう電撃大賞受賞作品が発売される月なんですね……、と刊行スケジュールを見て、遠い目をしたところで気付いたのですが、今年から一気に発売するのではなく、月を分けて出すようにしたんですねえ。その方が発売が一緒の新人賞同士で潰し合うことが少なくなるので良いのかな、と。

世界の十割が海になった世界『アフター』で生きる14歳のアキは、世にも珍しい『海の男』の女の子。両親の形見である船に乗り込み、メッセンジャーの仕事をしているアキはある日、嵐に逢い、大切な船を失って何もない浮島に取り残されてしまう。絶望と孤独がアキを蝕む中で、少女は生きるための「戦い」を始める。

ええ、表紙イラストを見た時点ではもっと明るいお話だと思ってました。あらすじを読んでもこんなに深い話の展開になるとも思ってませんでした。正直、油断してた……生きる、一緒に船に乗っていたカエルのキーちゃんと共に漂流したアキ。彼女は生きるために必死に戦い続ける。その必死さに、生きるためにもがくアキを見て、心を打たれるだろう。孤独のアキを描く前半は壮絶で、その先に救いがないのかも、とすら思ってしまうほど。

話が進むのは折り返し。後半、アキとは正反対の生き方をしてきた美女・タカとの出会いによって始まる。タカもまたアキと同じように漂流したことから協力し合い、心を通じ合わせることになる。単なる友情を超えた二人の強い結びつきをどう捉えるかでこの作品を本当に楽しめるかどうかが決まると思う。電撃大賞の大賞作品だけあって、骨太で考えさせられる「確かな」作りになっているなあ、と感心する。