飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「大奥のサクラ 現代大奥女学院まるいちっ!」感想

大奥のサクラ  現代大奥女学院まるいちっ! (角川スニーカー文庫)

大奥のサクラ 現代大奥女学院まるいちっ! (角川スニーカー文庫)

「ずっと言えなかった、ゆるしてくれ――さくらちゃん! 死ぬな! 生きてくれ、君を助けたい、守りたい! だけど何もできない、せめて……!」
硝子壁に手をついて、いま生死の瀬戸際にいる彼女に宣言した。
「待っていてくれ! いいや、待っていてくれたんだな――すぐに追いつくから! 君に追いつくから! もう迷わない、誤魔化さない、足踏みもしないから! 将軍が邪魔なら俺が父に挑む、いずれ倒し、俺が将軍になる!」
周りの観客たちがこの突然の発言に色めきたち、携帯電話で写真を撮り、囃したて、拳を振り上げる。場の空気に飲まれて盛り上がっているだけだろうが、秀影には応援に思えた。
「そして、君を迎えに行く! ずっと待っていてくれた君を! いいや、ちがう――そうじゃない、俺が言わなくちゃいけないことは他にあるのに! 俺は、俺は……!」
恥も外聞もばく、秀影は叫んだ。
「愛している! 君を愛している! ずっと、ずっとだ――君だけを愛している!」

日日日×みやま零コンビが描く、バトルあり恋愛ありの「これぞライトノベル!」と心を熱く滾らせてくれる物語。

鉄筋コンクリート造のビルに携帯電話やTVゲームなど現代文化のモノが存在する中、城があり刀を帯び着物を身に纏い戦後時代と変わらないスタイルで人々が生きる『大奥のサクラ』の世界観。
豊臣秀影は将軍家の長男であるが父に疎まれたことで、監察局『腐肉食堂(ハゲタカ)』で正体を隠し諜報員をさせられていた。生きる希望もなく気怠げに人生を送っていた秀影は、将軍である父の囲む『大奥』に潜入することになり、そこでショーケースの向こう側で血塗れになりながら年若い乙女たちが殺し合いをする凄惨な『ハーレム』の姿を目撃する。そしてその殺し合う女性の中に『百足姫」と呼ばれる、かつて喪ったと思っていた初恋の相手さくらを見つけたことから秀影の運命が動き始める、というあらすじ。

関ヶ原の合戦で豊臣軍が使用した『時空間爆弾』によって僕たちの知る歴史から離れ、またその爆弾の影響で一部の女性に異能が宿ることになるトンデモ設定はツッコミどころ満載だが、これぐらいやられると気分が良い。
初恋の相手でありお互い結婚の約束までした秀影とさくらが父の陰謀によって引き裂かれ、心に深い傷を生むことになるまでの描写は読んでいて切なくなる。大奥の中で秀影がさくらを見つけ接近するものの、『異能』の力によって自分の正体を明かすことが出来なくなってしまったせいで本当のことを言えず、二人のやり取りが酷くもどかしい。
秀影の妹である黒姫の案ようやくさくらと合うことが出来たが、黒姫の兄愛の強さと嫉妬によって思ってもいない秀影の言葉を代弁し、さくらを絶望させてしまう。黒姫は母親が母親だけあって実に悪女さんですな。

さくらが殺し合いのハーレムに身を置いている理由が現将軍である父に復讐を果たすため、ではなく次代の将軍となる秀影の正妻になれる可能性があるから、という実に乙女らしい理由で別離してからの年月、秀影がさくらを想っていたようにさくらもまた秀影を想っていたんだ。
それを知って黙っているようでは男ではないね。黒姫によって異能が解かれ、本音でさくらに向かい求婚する秀影さん最高です。
完全にデレデレになった二人のショーケース越しの恋とバトルまだまだ続く。銀狼や水蛇といった魅力的なキャラが脇役で収まることなく、今回同様どんどん前に出て活躍して欲しい。
危うく実の父に犯されそうになった黒姫が、まさにラスボスといった母親に何を吹き込まれたのか気になるところ。

ところで秀影がさくらに「肉奴隷になって僕の子供を産んでくれ」と言い放ったことから始まる初恋というのも考えものだと思います…。