「九十九の空傘」感想
- 作者: ツカサ,えいひ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2011/07/20
- メディア: 文庫
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「九十九神は、想いから生まれる。だからこそ、想いに縛られる。想いのとおりに生きるのは……決して楽なことじゃない」
部屋はもう真っ暗でほとんど何も見えない。シグの表情も分からない。
「シグは、しんどいの?」
「……さあな」
否定も肯定も含んだような口調。
「もし、忘れられるなら……忘れたい?」
わたしの問いかけに、シグはすぐに答えなかった。一分か、それ以上の沈黙を挟んで、ようやく彼の結論を述べた。
「いや――俺は忘れない」
それは決して強くない声だった。けれど、シグの言葉は耳の奥に強く残った。
『RIGHT×LIGHT』シリーズとは打って変わり、静かな語り口で紡がれる。
人のいない滅びた街に住む九十九神たち。様々な『モノ』に込められた想いに縛られ人の形をとった九十九神たちが、人間を模倣するように街で暮らす様は何処か寂しい感じがする。
想いに縛られる九十九神たちの中には、その想いから解放されて成仏したいと願うモノもいる。そういったモノたちの生を強制的に終わらせる役割を担う銃の九十九神シグと、自分が一体なんの想いに囚われているかも分からない生まれたての傘の九十九神カサとの交流は、シグの役割を『悪』だと決めつける他の九十九神たちの恐怖が違うのだと思わせる。
九十九神の想いを叶えてあげたいと願い、後先考えず行動するカサを護るため奔走するシグの姿を見えれば彼が悪い存在ではなく温かい心を持った九十九神であると分かる。
カサとシグ。アンバランスに見えるこの二人はこれでとても良いバランス関係を築いている。
次回作があるかは分からないが、出るのなら是非読みたい。