飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「誰よりも優しいあなたのために」感想

誰よりも優しいあなたのために (一迅社文庫)

誰よりも優しいあなたのために (一迅社文庫)


あきさかあさひさんの作品はこれが初になります。
お互いを想い合い、想い合いすぎて、心が痛くなり、心が温かくなっていく物語でした。

謎の宇宙生物によって世界の9割以上を侵略された近未来。そんな終わりに向かう世界で唯一、侵略を阻み続けている日本が舞台。
精神電子機械…サイコドライブと呼ばれる兵器の開発により既存の兵器では手も足もでなかった宇宙生物に対して抵抗することが出来る日本は、サイコドライブ兵器を動かすのに不可欠な精神力を持つ人間を必要としていた。人為操作によって生まれながらにして高い精神力を持ち、更に手術を経て強化された『サイコドライブ・チルドレン』の少女であるメイは、自分をモルモットのように扱う研究所で無感動な日々を送っていた。生まれてから11年間、一度も外界に出たことがなかったメイが、サイコドライブ兵器を操る軍人として『第十七サイコドライブ小隊』に送られた時から、彼女のしあわせな時間が始まり、そのしあわせな時間を守るために心を揺れ動かしていく。

本当の意味で一切の起伏がない生活を送り、そのことに疑問も抱かなかった人形のような少女メイが、第十七サイコドライブ小隊の面々に『家族』として温かく迎え入れられたことから、彼女が心を手に入れていく様が丁寧に描かれている。第十七小隊の中でも、メイよりも少しお姉さんでありサイコドライブ兵器を扱う『サイコドライバー』でもある元気娘のみまりの優しさが、メイの心を成長させたのだと思う。家族を護りたい。そのためにサイコドライバーが搭乗して稼働させる人型兵器ギアを駆って、宇宙生物と無謀にも見える戦いを挑み、皆を護り続ける。宇宙生物を倒し戦場から戻ってくると訪れる日常は、みまりたちと一緒にいる幸せを噛み締める時間。その心穏やかな時間が失われようとする時、初めて彼女は心の葛藤を経験し、それを読んでいると無性に心が掻き乱されて、どうしようもなく切なくなる。そして姉のように慕う少女の心を救うために選んだメイの方法は、それ以上に皆を想うみまりの優しさによって覆される。更にそれをひっくり返したのはメイの心の強さだった。正直なところ、最後の流れは卑怯だと思うよ、本当に…(泣きそうな顔で)

メイを『兵器』ではなく『家族』として必要だと告げられた時、ああまだ幸せな時間は続くのだと、ホッと胸を撫で下ろした。