飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「サイハテの救世主 PAPERI:破壊者」感想

サイハテの救世主  PAPERI:破壊者 (角川スニーカー文庫)

サイハテの救世主 PAPERI:破壊者 (角川スニーカー文庫)


流石は岩井恭平さん。これは唸る。
前半の展開が、後編への盛り上がりに見事繋がっている。

自分を「天才!」と称す沙藤葉がやってきたのは日本最南端の地、沖縄。アメリカで賞賛を浴びていた葉がこのサイハテの地にやってこなければならない理由は、ある論文を完成させるため…と、いうのは言い訳。突飛な内容の論文を発表した失敗により、逃げるように沖縄に来たのだ。汚名挽回と論文を書き始める葉であったが、島民たちの妨害(?)によってなかなか進まない。が、世話好き元気印の美少女・濱門陸に、タオルを被った売り出し中のアイドル少女・照瑠と、葉のことを天才だと信じない彼女たちと交流していく内に、葉は次第に心を開いていく。しかしアメリカから沖縄に渡るまでの記憶の欠落と、未完成である世界滅亡を記した『破壊者』の論文が、徐々に葉を苛んでいく。

前半は葉が天才である根拠が一切示されずに進行するため、陸と照瑠、島民たちと同じく「こいつ本当に天才なのかよ…」という思いに駆られる。排他的で、どう見てもまともな人間に見えない葉であるから、まあ無理もないことですが。人の心を無視するような発言をして他人を傷付ける葉を、何だかんだで世話を焼き、キッチリ彼に説教をする陸の健全な心が光る。これぞヒロイン。穏やかな前半とは打って変わって、葉は自分自身の存在について悩み、世界の滅亡が関わる緊張感ある展開に突入。自らが提示した『破壊者』のシナリオ通りに進行するテロに、最初は逃げ出すも、テロの舞台になった沖縄とそこに住む人々を想って戦う葉の姿が熱い。ダーリン女史の言っていた英雄であり天才である存在の葉を完全に覆した。物語が終わってみれば葉を「天才」と崇める島民はいない。それでも読み手にスッキリした気持ちを残したのは、葉が沖縄という地に受け入れられ、受け入れたことへの安堵感からかと。次回は沖縄だったのになかった水着イベントありということで、今から期待しております。