飼い犬にかまれ続けて

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「千の剣の権能者(エクスシア)」感想

千の剣の権能者(エクスシア) (このライトノベルがすごい! 文庫)

千の剣の権能者(エクスシア) (このライトノベルがすごい! 文庫)

〈あらすじ〉
権能――それは、特定の事物を自在に操る力。世界は、権能を持つ代償として魂を抜き取られた〈権能兵〉を有する帝国によって統治されていた。
“英雄”を求める青年クオンは、〈権能兵〉でありながら帝国の支配を受けない少女クアディカと出会う。
流れぬ涙を流さんとするかのように、彼女は〈剣〉の権能を振るう。
その手に、失われた魂を取り戻すため――。
第3回『このライトノベルがすごい!』大賞受賞者、受賞後第1作。

このラノ大賞受賞者の三ヶ月連続刊行2作目。デビュー作の『ロゥド・オブ・デュラハン』が面白かったので、期待して読みました。人によっては物語のボリュームが足りないと思うかもしれないが、一作完結ならばこれくらいが綺麗に落ちて丁度良いかな、と僕は感じた。

特定の事象を操ることができる『権能』の力。
しかしあまりに強大な力のため『権能』を使った人間の魂は壊れてしまう。帝国は魂を抜き取り、感情の無くなった『権能兵』を操り人形にし、武力としている。
そして『権能』を使うのは『権能兵』だけでなく、『権能者』と呼ばれる怪物が存在する。そのせいで『権能者』に対抗できる唯一の力を持つ帝国の支配を、世界は受けなくてはならなくなった。
そんな世界で『英雄』を求める青年クオンは、暴走する『権能兵』に襲われる。危機に陥った彼を救ったのは、同じ『権能兵』である少女クアディカ。帝国の支配を受けない『権能兵』のクアディカに、クオンは自分が探し求めている英雄ではないか、と思い始める。

誰もが救われたいと願う世界。
かつて大切な人を見殺しにしたクオンも、国を帝国によって支配される人々も、そして感情を持たないはずの『権能兵』クアディカでさえも、救いを求めている。
英雄などという、自分が救われたい一心で求め続ける存在は幻想に過ぎない。皆が寄りかかろうとしているクアディカは、ただ悲しい時に涙を流したいと願う女の子でしかないのだから。
英雄への勝手な期待が失望に変わり、そこから救うべき対象に変化していくクオンの想い。クアディカの言動は、クオンの心をこれでもかと揺さぶった。クアディカの順な願いは、腐っていた青年を突き動かしたのだ。

ここまでひとりの女の子を追い詰めて、最後に救いがないなんてことはない。クアディカは人を守りたいと思う少女であると同時に、守ってあげたい少女でもある。だからこのラストに、僕は心救われました。