「人形遣い」感想
〈あらすじ〉
わたしの名前は坂上神楽。凄く可愛くて頭が良く、芸達者で器用で立ち振る舞いも完璧。ダイヤモンドもはだしで逃げ出すとまで謳われる世界的天才美少女であり、討魔である。討魔とは、狼男のような人ならざる化け物を人知れず影で退治するという、実にありがたい御仏が如き仕事に従事する人間なのだ! ――人形を繰る一族の少女・神楽は兎のぬいぐるみを操り、その天才性から無比の戦闘方法を魅せる。そんな彼女があるヴァンパイアと出会い……。
第7回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞受賞作!
表紙を見て、口絵を確認した瞬間、期待していた通りのことが起こりました。
ライトノベルでは不遇な扱いを受けている一部の趣向をお持ちの皆様。お待たせしました、この物語には少女たちの友情が多めに含まれています。
人形を操り、妖魔を狩る『討魔』を業にしている一族の少女・神楽。自分自身のことを「超天才美少女」と称し、そう豪語する通りの「人形遣い」としての才能を持つ。しかしその不遜な態度と、一族から逃げ出し、父親が誰とも分からない女から生まれた神楽は忌み嫌われていた。それでも与えられた命令をこなす日々を送る中で、神楽は人狼に襲われているひとりの少女を救うことになる。彼女の名前は鈴音。特殊な吸血鬼である鈴音は、神楽が他人との間に築く冷たい隔たりを無視して触れ合ってくる。人と妖魔。本来ならば相入れない存在である二つの種族。神楽は陰謀の渦に叩き落とされる中で、鈴音との友情を育む。
敬愛する祖父は死に、周囲に心を許せるモノがいない中で、『人形遣い』として成長してきた神楽。その心は驚くほど覚め切っていたが…その実、人の温もりを求め続けている。ギュッと胸に抱く戦う兎の人形はが、神楽の心を少しばかし温めてくれる。
神楽自身の性格のせいもあるが、一族敵ばかりの状況下で、常に気を張っている神楽の精神状態を読み進めていくほど気がかりになっていく。読者の心配を感じ取ったかのように、再び現れるのが神楽とは正反対の明るい性格の吸血鬼少女の鈴音。幾ら拒絶しようとも、スルリと神楽のパーソナルスペースに入り込んでくる鈴音は天然のタラシか。次第に鈴音との距離を縮める神楽は、これまで「人形」のように空っぽだっだ自分が「人間」に戻っていくのを実感し、生きることに積極的になる。
だが、順調には進まない。妖魔と仲良くする人形遣いを、許すほど一族は神楽に優しくない。陰謀に飲み込まれそうになりながらも、必死になってもがき、生きようとする神楽。その姿に感化される鈴音。「生きる」ことについて、何処似たところのある二人にもう隔たりはない。一族全てから嫌われていたと思っていた神楽の心を最後に救い上げた伯父のキャラ作りは、見事な憎まれ役だった。神楽と鈴音。二人の少女友情を…もっと読んでいたい。