飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「蒼天のサムライ 第一部 端琉島脱出戦」感想

蒼天のサムライ 第一部 端琉島脱出戦 (オーバーラップ文庫)

〈あらすじ〉
二人の名は天津煌国(あのつこうこく)の滅亡とともにいつまでも語り継がれていく。
煌国の下士官竜士である竜洞マスミは赴任先の端琉島で親友の竜部シンヤとその妹、アユネと再会を果たす。
竜巣艦の教官を拝命したマスミだったが、敵国であるグロース帝国が端琉島へ奇襲攻撃を行い、部隊は甚大な被害を被ってしまう。
かろうじて難を逃れたマスミとシンヤは、住人と負傷兵を脱出させるため、絶望的な戦力差のなか、敵国の戦闘機部隊との戦いに赴く。
煌国の歴史が大きく動くこの戦いは後に《端琉島脱出戦》と呼称されることとなる。
壮大なスケールで描くファンタジー戦記、開幕!

こ、これは硬派な表紙やでえ…!
昨今のライトノベル文化にどっぷりな…つまり自分のような人間は新刊台の前で思わず一歩引いてしまうほどの男気ある表紙かと。そこを堪えて手を伸ばし、颯爽とレジに持って行った僕を褒めて貰いたい。

結論からいうと…買って良かった!
冒頭から物語に没入し、気づければ文庫本が折れ曲がるほど力を入れて読んでいた。人の命など容易に散ってしまう戦場の中、戦士たちは誇り高い矜恃を胸に戦い抜く。

竜を駆る天津煌国と近代的な兵器を駆使するグロース帝国の戦争。戦闘機をも上回る竜の力でグロース帝国を圧倒していた…のは数年前の話。近代的兵器と竜との力の差は年々埋まって行き、天津煌国は劣勢に立たされていた。そのことを竜を操り戦う竜士である主人公・竜洞マスミは肌で感じていた。国の未来を憂いながら、端琉島にやってきたマスミはそこで幼馴染である竜部シンヤと再会を果たし、一時の安らぎを得る。落ちこぼれの竜士であるマスミは教官として新米竜騎兵に指導をしようとするが、言うことを聞く者など存在せず…その刹那、端琉島にグロース帝国の艦隊が突如攻め込んでくる。降り注ぐ火線の中、マスミは仲間を助け出すため竜を駆る。

壮大な物語の、これは一ページ目。
捨て子の身で竜士として育て上げられたマスミ。同じ時に竜士になるべ切磋琢磨したシンヤとその妹のアユネは国を支配するほどの高貴な家系であり、マスミとは生きる世界が違う。そんなマスミはかつて相棒だった竜を殺してしまい、落ちこぼれのレッテルを貼られた男。元より身分が低くこともあって、階級は下でも命令を聞かない者も多く、身分も誇りも高いトモエなどはその代表だ。シンヤの腰品着扱いされることには慣れているものの、それでもマスミにも誇りはあり、トモエたち新米竜騎兵に一杯食わせようとするなど人間味もある。

シンヤとアユネ、あるいはトモエとのやり取りに「戦争の中の日常」を感じさせる。ある意味で平和な時間。その穏やかな時を切り裂くのが、グロース帝国の進行。竜を中心としたファンタジー要素の強い天津とは違い、油の匂いを強く感じさせる圧倒的な戦力を持っての攻撃。なす術もなく蹂躙される端琉島。一瞬でも気を抜けば、いやそうでなくとも命を散らしてしまう激しい戦場をマスミは竜のビャッコウと共に駆け抜け、絶望的な状況を少しでも好転させようと必死になる。自分に出来ることを…それには勿論、限界がある。

それでも逃げ出さずに、出来る戦いをする。マスミとシンヤが下した決断は、想像を上回る戦果と悲劇を手繰り寄せることになる。奇跡と引き換えに失った命を目撃して、マスミは、シンヤは、今後どう戦場と対峙して行くのか…終わり方も気になるため、手に汗を握る続きを早く読みたい。