飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「クラッキング・ウィザード ~鋭奪ノ魔人と魔剣の少女」感想

クラッキング・ウィザード ~鋭奪ノ魔人と魔剣の少女 (このライトノベルがすごい! 文庫)

〈あらすじ〉
天空都市《ヴァラスキャルヴ》の一画で探偵を営む主人公・ヴァルは《鋭奪ノ魔人(クラッキング・ウィザード)》の異名を持つ天才的グラムハッカー(魔術探偵)。そんな彼の元に魔術器具会社の社長令嬢エーレフォーアがやってきて、母の形見である腕輪の奪還を依頼する。超おてんばな彼女にてこずりながら仲間の情報屋やハッカーの力を借りて腕輪のありかを突き止めるが、その裏にはある人物の黒い思惑が……。
ライトノベル紙面では初となるAR技術の導入でヒロインが飛び出す!

「高度に発達した科学は魔法と同じ」というが、まさにそういった世界観が魅力の作品だった。主人公とヒロイン、そして仲間たちの関係も心を熱くさせる。

地上で繰り広げられる他種族の大戦争から逃れるため、天空に浮く都市を作り上げた人類。天空都市『ヴァラスキャルブ』で探偵業を営む主人公の少年ヴァルは、都市に張り巡らされた魔力の網『グラムライン』を使い、ハッキングを仕掛ける外法術師。人との関わりを極端に嫌うヴァルは、倒産した魔法器具関連の大企業の社長令嬢エーレファーアが巻き起こすトラブルに巻き込まれたことから、彼女が母親の形見を取り返す依頼を受けることになるのだが……。

まるでインターネット網のように「魔力網=グラムライン」が駆け巡る天空都市を舞台に、両親に見捨てられた過去から人と人との関係から目を逸らして生きる少年ハッカーと、元気いっぱい剣術を扱うじゃじゃ馬娘のエーレファーアが巨大な陰謀に立ち向かうことになる物語。グラムラインから魔力を引き出して魔法を使ったり、あるいはグラムラインを辿って繋がっている魔法器具から情報を引き出したりする。後者の戦いに長け、天才とも呼ばれるヴァルのハッキング技術が光り、実に面白い。

魔法関連の「設定=バトル」も見せ場であるが、物語の流れも王道で孤独な人生を送ってきたヴァルの心を、エーレファーアの真っ直ぐ生きる心が強引に押し広げ手を伸ばすまでが丁寧に描かれていく。エーレファーアだけでなく、仕事仲間である他の外法術師も登場し、肩書きから抱くイメージとは違い人間味溢れ、ヴァルと関係を持とうとする心温まる展開もある。またヴァルと同じように暗い人生を過ごしてきたハッカーの少女アルマとの対立と、巨大企業の卑劣な陰謀を通して正義感に目覚めて行くヴァルの心境にしっかり「納得」できる作りにもなっている。

終わりまで読んでみると、続きを期待させてくれるのでこのままシリーズ化して欲しいな。特にエーレファーアとアルマの関係がどう描かれるか楽しみである。