飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「グラウスタンディア皇国物語1」感想

グラウスタンディア皇国物語1 (HJ文庫)

〈あらすじ〉
五年前、隣国リジアとの大戦を終結させた七人の英雄――《皇国七聖》。その一人である双剣使いの青年軍師クロムは、主たる姫君ユースティナとの誓いを守り、再び開戦が迫った皇国の切り札として戦場の最前線へ舞い戻る! 武力と知略の両面で卓越した才能を発揮し、絶望的な戦況さえも鮮やかに覆す英雄軍師の活躍を描いたファンタジー戦記、開幕!!

ここ最近、増えつつある戦記ファンタジー作品。正直なところ、戦記ファンタジーが流行っているものの、僕個人としては「隙間産業」だと感じている。毎月何処のレーベルもひとつは出してくるため、こんなに出発しても作品の差別化を図れないよな、と思ったりします。そんな中でも「面白い」と素直に思い、ページを捲らせる力があるのだから、本作はそれだけ面白い…いや、どういう理屈だって話だが。

グラウスタンディア皇国と、隣国であるリジア宗旨国家の9年にも及ぶ長き戦争を終わらせた七人の英雄。後に『皇国七聖』と呼ばれることになる七人の英雄たちは、幼き姫ユースティナのもと、再び皇国に危機が訪れた際集結することを誓い、別れることになる。それから5年後。かつて天才少年軍師として名を馳せたクロムは青年となり、人里を離れ、妹のリュリュと共に暮らしていた。そのクロムの元にやってきたのは、幼馴染の少女フィフニスだった。騎士となったフィフニスの任務は、クロムをユースティナのもとへ連れて行くこと。皇国の危機に、ユースティナとの誓いを果たすため赴くことになるのだが、その道中、クロムたちは海賊に襲われてしまい……。

どんな大事にも臆することなく、飄々とした態度のまま困難な事態を乗り越えていくクロムのスタイル、僕は好きだな。「クロムというかつての英雄が、どれほどの力量の者であるか?」を波のように襲いかかり、ハードルの上がる苦難を飛び越える度にその力を見せつけてくれる物語運びは上手い。本心をなかなか話さず、周囲を煙に巻こうとするクロムに対してお姫様のユースティナはむくれて嫉妬をして、幼馴染のフィフニスは素直になりきれずすれ違う。そんな二人の女の子の配置も好き。妹…だというには無理のあるリュリュは、異端の術を使う謎めいた存在であり、物語の鍵を握る人物であるが、それだけに明かされないことが多く、ヒロインと呼ぶにはちょっと違う気がする。

王国を救った七人の英雄。クロムは敵を翻弄する頭脳だけでなく、英雄それぞれの背中を見て学んだ術を武器にして戦争に挑む。彼の叫ぶ「負けない戦い」は、どういった結果をユースティナに見せるのか。あるいはユースティナもクロムの行動から学び、どんな結果を国民に見せようとするのか。クロムだけではなく、ユースティナの成長も見守りたい作品だ。