飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「《名称未設定》 Struggle1:パンドラの箱」感想

《名称未設定》 Struggle1:パンドラの箱 (ファミ通文庫)

《名称未設定》 Struggle1:パンドラの箱 (ファミ通文庫)

〈あらすじ〉
俺、神園祐希は、チュートリアルと名乗る少女に〈デイドリーマーズ・ストラグル〉に誘われる。
それは未来人の暇つぶしのための見せ物で、勝利のご褒美〈投げ銭〉を集めれば、どんな望みも――来年起こるらしい第三次世界大戦の回避も叶うという。
部活仲間の綴、センパイとともに、俺はこのクソッタレな"白昼夢"に挑むことになってしまった。
俺は、日々平穏に過ごせればそれで良かったんだけどな――。
第14回えんため大賞特別賞受賞、ヒネクレ青春×バトルゲーム!

同じ『第14回えんため大賞』作品の『四百二十連敗ガール』に続いて読んだけど、コッチも面白いね!
ライトな『四百二十連敗ガール』とは正反対の作風。死と隣り合わせのバトルゲーム。その緊張感に酔いしれて欲しい。

コンピューターゲーム部に所属し、親友の綴と部長のセンパイと生温い日々を送っていた神園祐希は、とあるバトルゲーム誘われる。『デイドリーマーズ・ストラングル』と呼ばれるそのゲームは、未来人たちが暇を潰すために現代人同士を未来の武器を使って戦わせる見せ物。勝利者にはその活躍に見合った『投げ銭』が与えられ、『投げ銭』を消費することによって様々な願いを叶えることができるシステム。
そうチュートリアルと呼ばれる参加者を補佐する無感情な少女に説明された祐希たち三人は、近い将来巻き起こるらしい『第三次世界大戦』を止めるため、このゲームに参加することを決める。

別にこの三人は世界を本気で救いたいと思っている訳ではない。英雄志望でもない。ただ腐っていくような退屈な毎日を終わらせたかった。彼等はそう感じていたのだろう。
状況に流されるまま随分と簡単に『世界を救う』ことを決めた祐希たち。女装趣味のある美少年の綴に、二次元のことで頭がいっぱいのセンパイと変人揃いのチーム。加えて無表情に見えて中身はただの天然ちゃんのチュートリアルと、実に面白い癖を持ったキャラクターたちで溢れている。どうにも上手く三人を導けている気のしないチュートリアルの言動が一番おかしい。
人の命を軽視した未来の武器の説明に心踊るのが止められない。まともではない未来の武器を活用し、相手の持つ仮面を破壊あるいは無力化…殺すことで勝利を手にすることができる。例え相手を殺したとしても、ゲーム開始前の状態に巻き戻るため死ぬことはないのだが、それでも人を殺すことを忌避する祐希は、狂ったこのゲームの中でも信念を貫こうとする強い意識を感じさせる。
初心者丸出しの三人であるが、戦い方は異様なほど手慣れていて、特にセンパイの動きは玄人のそれだろ。

バトルゲームだけあって、頭脳戦も要求される。またゲームだけではなく、勝利報酬や自分の願いを叶えるためにそれを邪魔する願いを排除しなくてはならない等、一筋縄ではいかない。まともなゲームではないと始めから分かっていたものの、進行するに連れてその異常さと底意地の悪さが目立ってくる。
相手の裏をかこうとする『伏線』の貼り方が上手い。それだけじゃなく、祐希に纏わる背景への予感を匂わせるのが巧みで「もしかしてこれは…」と思った通りになり、その仕掛けに思わず笑ってしまった。

この物語には続きが用意されている。今回の締めくくり方の上手さを見て、先がとんでもなく気になるよ。