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「ラストセイバーII 恋殺の剣誓」感想

ラストセイバーII 恋殺の剣誓 (電撃文庫)

ラストセイバーII 恋殺の剣誓 (電撃文庫)

〈あらすじ〉
西暦2140年。そこは、史上最悪の敵「天使」の容赦ない猛威によって、人類が絶滅寸前になっている世界だった。
2015年からタイムスリップした少年・名薙綾月は、過去へ戻るための方法を探りながらも、しばらくは過酷な世界で暮らしていくことを決意する。
そして騎士候補生となった彼がまず命じられたのが、調査活動。目的地は「黒の森」と呼ばれる、謎の多い怪しげなエリア。
アニカや真無とともに現地へと向かう名薙だったが、目の前に意外な人物が現れ、壮大な事件に巻き込まれることになる──。
新次元異能バトル、驚きの急展開を見せる第2巻が登場!!

2週間前はただの高校生だった名薙が、今では騎士候補生。
否応無く押し寄せる『現実』に名薙の心が軋む音が聞こえる。

英雄の後継者になった名薙を襲うプレッシャー。状況に流されるまま秘められた力を振るい、天使イグニスを退けたものの「果たして自分は英雄になり得るのか?」という疑問は常に付き纏う。名薙に取って「現代への帰還」はそうした重圧から逃避することのできる最適な方法。
しかし思えば当然のこと。名薙が今いる未来は間違いなくこれから起こる確かな現実。現代に逃げ込んでも全く意味がない。このどうしようもない現実から目を逸らすことが出来ないのならば、もう戦うしかないのだ。その決意を誰よりも固めていたのが真無であり、彼女の芯の強さが伺える。まあ真無の場合、この状況を楽しんでいる節があるが…とはいっても『終焉の騎士』クリスと相対しても動じないどころか、文字通り目にものを見せたのだから、彼女の強さは本物。

揺れる名薙の心を更に震わせるのが二人の同級生。この世界にやってきたのは名薙や真無だけではないのだから、起こりうる展開である意味期待していたことでもある。
敵として姿を現したかつての友人。残酷なこの世界で変わらずに入られる人間などいない…そう思わせるほど変わり果て外道に堕ちた萩谷は、名薙の心を追い詰めていく。また天使という強力な敵だけではなく、萩谷のように同じ人間でありながら人類と敵対する道を選ぶ人間たちの存在が、絶望感をより深いものにしている。
そしてもうひとり。名薙の幼馴染であり、クラスメイトの藤埜。守るべき対象である彼女の正体が、名薙を打ちのめす。藤埜の身体に纏わる真実…それには名薙の妹も関わっていて、まるでなかなか覚悟を決めない名薙を追い詰めているかのようだ。
名薙以上に現実から目を背ける萩谷に啖呵を切ってみせた名薙。英雄としての本来の力を示し、覚悟を決める意味も込めて、既に人でなくなっていた藤埜を消滅させた。ある意味で、名薙の英雄としての物語はここか開ける。その名薙を支えていたのは、間違いなくアニカ。彼女の明るさと優しさがなかったら名薙の心はポッキリ折れていたよ。彼女にも彼女の悩みがあるけれど、幼き英雄の背中を支えて欲しい。

しかしイグニスにしてもクリスにしても、撃退しただけで殺してはいないから天使側の戦力はそれほど減ってはいないような。名薙のやることは多いぞ!