「いつか世界を救うために -クオリディア・コード-」感想
〈あらすじ〉
西暦二〇四九年。世界は終わるかと思ったが、終わらなかった。突如として現れた正体不明の『敵』―“アンノウン”と戦争を続ける人類。防衛都市のひとつ神奈川の学園に転校してきた紫乃宮晶。彼の目的は『神奈川序列第一位・天河舞姫を暗殺すること』。しかし『最強』の称号を有し、人類の希望である少女の強さはあまりにも規格外で…。「のぞきではない。監視だ」「今は胸を調べている」「無論、尾行だ」「変態ではない、調査だ」「秘密裏に行う家宅捜索だ」舞姫の全てを知るための観察が始まった!?新世代ボーイ・ストーキング・ガール!!
「プロジェクト・クオリディア」それはレーベルの枠を超えた人気ラノベ作家たちの夢の共演。集英社ダッシュエックス文庫から始まったシェアワールド。富士見ファンタジア文庫は橘公司さん、MF文庫Jはさがら総さん、そしてガガガ文庫では渡航さんがそれぞれ作品を展開していく企画……と、いうことに全く気付かずに、本作を購入しました。ほ、ほら、人気作家さんの新作はとりあえず買っとけの法則ですよ。(汗)
人類に敵対する謎の生命体『アンノウン』によって滅ぼされかけた世界であったが、何とか人類側の勝利で終わった。安全のためコールドスリープしていた人々が目覚め始めると、彼等にある超常の力が備わっていることに気づく。西暦2049年、未だ残存する『アンノウン』と戦い続けている人類が生きる防衛都市のひとつ……神奈川に君臨する序列1位の少女・天河舞姫。彼女の暗殺を命じられた少年・紫乃宮晶、通称シノは天河の在籍する高校に転校生として潜入する。暗殺に向いた能力で舞姫を亡き者にしようとするシノであったが、序列1位の肩書きは伊達ではなく、その強さに圧倒される……。
神奈川を舞台に、人類に敵対する『アンノウン』そして蠢く陰謀と戦う学園異能バトル……と単純に言っていいのかな。ちなみにさがら総さんは「東京」、渡航さんは「千葉」を舞台に物語を展開するようだ。ちなみに先行して発売した『クズと金貨のクオリディア』との繋がりは感じなかったので、この作品から読み始めても安心。え?『クズと金貨のクオリディア』の内容を忘れてるだけだろって?……勘の良いガキは嫌いだ。
公式あらすじに「序列1位」とあり、異能力の存在を仄めかしながら始まるものの、その力の正体が分かるのは50ページも過ぎた頃。コールドスリープの間に見ていた人類それぞれの「世界」(=夢?)を、現実世界に異能力として体現させることができる。政府機関に所属するシノの力は「見たものを斬る力」であり、また「誰とでも友達になれる力」だったりと異能力らしい異能力が登場して非常に分かりやすい。その中でも舞姫の力は絶大で、東京と千葉の序列1位にとっては目の上のたんこぶといった存在。(その辺りのことを他のシェアワールド作品で描いたりするのかな?)
人類の敵を屠ってくれる有難い存在である舞姫を、なぜシノに命じて政府は暗殺しようとするのか。そのことに疑問を抱きながらも、同僚であるほたると協力して学園に潜入するシノであったが、舞姫は一筋縄ではいかない相手と見極めると、観察という名の覗き・ストーキングを開始。そこに舞姫の四天王(笑)を称する愉快な少女たちも加わり、舞台装置はシリアスなのにキッチリとコメディもやって笑わせてくれる橘公司さんのお家芸(褒め言葉)が発揮されていてページを楽しく捲ることができた。
無愛想だけど真面目で人の良いシノと、天然全開可愛い我等の姫様こと舞姫の交流=デートがこの作品一番の見所。この二人の微笑ましいアホっぷりは和むわ。そして最後はシリアスな陰謀・バトルに突入。物語の構成は上下巻のようで、もう1冊で一区切りになるようだ。しかし舞姫の親友であり、未だ正体を彼女に打ち明けないほたるは何を考えているのか。潜入なら偽名使えよと思ったけどそれは無しなのね、はい。