飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「タタの魔法使い」感想

タタの魔法使い (電撃文庫)

〈あらすじ〉
2015年7月22日12時20分。弘橋高校1年A組の教室に異世界の魔法使いを名乗る謎の女性、タタが突如出現した。後に童話になぞらえ「ハメルンの笛吹事件」と呼ばれるようになった公立高校消失事件の発端である。「私は、この学校にいる全ての人の願いを叶えることにしました」魔法使いの宣言により、中学校の卒業文集に書かれた全校生徒の「将来の夢」が全て実現。あらゆる願いが叶った世界―しかしそれは、やがて犠牲者200名超を出すことになるサバイバルの幕開けだった。第24回電撃小説大賞にて“大賞”を受賞した、迫真の異世界ドキュメント。

第24回電撃大賞「大賞」作品になります。そういえば前回の電撃大賞作品全部読んだのに諸事情(怠け)によって感想書いてないから、妙な違和感がある。「前回の最終選考に残った作品かな?」とか思ったけど、そうか、もう2月なのか、と。

タタと名乗る異世界の魔法使いが弘橋高校に突如出現し、学園にいる全ての人間の願いを叶えると宣言する。「中学の卒業文集」に書いた夢がとんでもないカタチで具現化……教師を含めた弘橋高校の人々は、気がつくと校舎ごと中世ファンタジーの異世界へ。右も左も分からない異世界に放り出された彼等は元の世界に帰還するため、魔法使いタタを探すことになるのだが……。

設定は大好物。実際中身も好みだったけど、これは賛否が分かれる作品だなあ、と読み終えて思った。
物語は主役のひとりである高校生の姉の視点で語られるドキュメントタッチの作品。事件は既に「終わっている」ところから事件の検証を含めて「始まる」のが面白いポイント。しかしとにかく登場人物が多く、状況の考察を交えながら進んでいくので読みにくさが目立った。数行読み飛ばしてしまうと重要な情報が抜けてしまうことがあったりするので油断できない。そういう意味では情報(設定)の詰まった濃密な作品ではある。

願いのカタチ。先生になりたいとか自衛隊員になりたいとかバスケの選手になりたいとか、あるいは抽象的なものだとモテたいとか、おかしな願いだとヒーローになりたりとか。夢の叶い方はその願いの奥に込められた想いごと具現化している点が面白い。例えば単純に「サラリーマンになりたい」と願ったとしても、その願いの中に「商談に長けた優秀なサラリーマン」になりたい想いがあって、その願いが叶う。中には魔法使いや魔法少女になっている人もいるけれど、その願いの奥底にあるものを描いているのも面白いところではあった。

濃密な設定におけるサバイバルドキュメント。なのでもう少し展開の起伏が激しいともっと楽しく読めたかなあ。しかし新人賞作品にこれ以上の展開を求めるのは酷かな、とも思いました。締めのある設定(?)には笑った。