飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者1」感想

アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者1 (講談社ラノベ文庫)

アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者1 (講談社ラノベ文庫)


世界観を練り込み、テーマを据えて、それを堅実に描き切る榊一郎さんの職人技。
大変面白かったです。恐れ入りました。

魔法があり人間以外の亜種族が存在するいわゆる『ファンタジー世界』と日本が繋がったことから、異世界に『萌え文化』を伝えようとする突飛な設定。異世界の存在を持て余す日本政府が、その世界の人々に唯一受けの良かったオタク文化を売りにして交易をするため、萌えに精通している以外なんの取り柄もない主人公・慎一を雇いエンターテイメント商社『アミュテック』の支配人に任命する。両親の脅迫によって自宅警備員を引退するはめになり、就職先を探していた慎一に白羽の矢が立ったわけであるが、日本が異世界の存在をまだ秘匿し情報を守るため、いついなくなっても問題ない人間が選ばれたというのは恐ろしい。

といった理由で半ば強制的に異世界…神聖エルダント帝国に派遣された慎一。最初こそ混乱したものの、慎一をサポートする女性自衛隊員にしてグラマラスな身体を持つ美埜里(中身は腐女子)や、健気で純粋なハーフエルフ美少女のメイドさんであるミュセル、更にはエルダント帝国を統べる『ロリッ娘陛下』ことペトラルカに囲まれて、『萌え』を刺激された彼がオタク文化を伝えようと奮闘し始める。これだけオタクの夢見た属性を持つ美少女に後押しされてテンション上げないオタクはいないよね。特に可愛いメイドのミュセルに慕われては一生懸命になってしまうよ。

日本のオタク文化を異世界に広く伝えるために、まず障害となったのは『言語』であり、またそれを学ぶには更なる壁である人間と異種族間に深く根付いた『差別』問題にも直面。日本とエルダント帝国との文化の違いにショックを受けて悩む慎一の姿に、読み手としては最初に抱いていた「萌えを扱うから話の内容は軽いモノ」という意識が吹き飛んでいた。異文化交流の中で当然出くわす問題を提示し、それをキャラクターに解かせる。物語にテーマを持たせるこの描き方は榊さんの持ち味。

ミュセルと(一応)ペトラルカにも支えられ、悩みながらも自分なりのやり方を貫くしかない慎一が、これからどのような手腕で異世界に萌えを広めていくのか。
ところで表紙のミュセルが持っているラノベが榊さん出世作の『スクラップド・プリンセス』なのが芸細かいなあ。