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飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「代償のギルタオン」感想

代償のギルタオン (スーパーダッシュ文庫)

〈あらすじ〉
『代償』を支払うことで、特殊な力を発揮する巨大人型兵器ギルタオン。
世界は、この呪われた兵器によって、戦争への扉を開くことになった。
国の治安は悪化の一途をたどる。それは、主人公ライクの住むルトニザーノも例外ではなかった。
暗澹たる未来に嫌気がさしたライクたち兄妹は、もっと安全な土地に移住しようと、首都ランフェルドへと向かうことにした。希望を胸に、列車へと乗り込んだのだが、道中、何者かの攻撃を受け、立ち往生してしまう。
偶然、近くを移動中だったラーンハイム軍の戦艦ヘルヴィータに救助してもらえることになった。
しかし、艦は任務中であり、すぐにはランフェルドに向かってはくれなかった。
ヘルヴィータの任務は新型のギルタオンの回収。つきあわされることになるライクたち。
一方、敵国リオンザイルは攻撃を開始し、ギルタオンの奪取を目論む。
漁夫の利を狙うテロリストまでもが襲撃を始め、ヘルヴィータは窮地に――。
夢と希望に向かって走り出したはずの兄妹は『代償』を迫られる。愛する者を守るために――。

第12回集英社スーパーダッシュ小説新人賞『優秀賞』作品。今回から審査員の方々がSD新人賞組に変わっているのが印象的でした。自分のところでデビューした作家さんが、新しい才能を生み出す手助けができるのは良いことだと思います。

夢も希望もなく「其処」には圧倒的な「現実」しかない。
戦争。治安が悪化する生まれ故郷を離れ、もっと安全な街に移り住もうと考えた孤児のライクは、勝気な姉のヤシャナと可愛い妹のミコと共に首都ランフェルド行きの列車に乗り込む。血の繋がりこそないが、肩を寄せ合い一生懸命生きてきた三人を、苛酷な運命が襲う。戦争の一端に巻き込まれた列車は、ラーンハイム軍の戦艦ヘルヴィータによって助けられ保護されるが、ライクたちを乗せたまま任務を続行する。ヘルヴィータの任務は、ある遺跡に発見された巨大人型兵器『ギルタオン』を回収すること。絶大な力を振るう『ギルタオン』はたったひとつで戦局を変えてしまう兵器のため、世界各国は血眼になり『ギルタオン』を探していた…しかし『ギルタオン』はパイロットにとてつもない『代償』を強いることで力を発揮するため、失っても誰も文句の言わない孤児であるライクたちに、軍人たちはある提案をする。

世界の端っこで逞しく生きてきた孤児たち。彼等の知らないところで勝手に始まった戦争。大人たちは、軍人たちは、「国のために命をかけて戦っているんだ」と言う。でも孤児たちには…ライクたちにはそんなの関係ない。ただ心を許せる家族と共に生きられさえすれば、後は何だって良かったんだ。

冒頭から吸い込まれるように読み耽り、気がついたら読み終わっていた。ラストに向けて緻密に組み上げられた物語。その揺るぎのない展開を描き切る筆力に脱帽するしかない。何よりもライク、ヤシャナ、ミコ、三人の兄妹の絆を丁寧に見せ、読者の心とライクたちの心を重ね合わせる…感情移入させる手腕には唸るよ。いや、歯が浮くくらいベタ褒めしているけど、本当にそう感じたんだからこれは正直な感想です。

その人が最も大切にしているモノ。その人が心の拠り所にしているモノ。そういったモノを容赦なく奪い去り、力に変える凶悪な兵器『ギルタオン』…苛酷な運命を強いる『ギルタオン』に対してパイロットたちは、孤児たちはどう向き合っていくのか。既にパイロットとなり、覚悟を決めた者、あるいは決断できずに苦しむ者を通して読者の心を鷲掴みにする。この後に待ち受けているのは…ライクたちの「答え」がどんなものになるのか、ひたすら不安に思いながら、読み進めていくことになる。

戦争は誰のために戦っているのか?
国家のためか?
国民のためか?
仲間のためか?
家族のためか?
自分のためか?
常に問われ続ける。答えなんてあるようでない。ただ状況に強いられて覚悟したふりをして納得する材料を得るために「何か」のせいにして戦っているに過ぎない。『ギルタオン』を貪欲に欲する『代償』は、人の心を容易に蝕んでいく。ライク、ヤシャナ、ミコの想いは戦争の中で、どうなっていくのか…是非読んで、その「先」を目撃して頂きたい。