飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「魔女殺しの英雄と裏切りの勇者」感想

魔女殺しの英雄と裏切りの勇者 (MF文庫J)

〈あらすじ〉
≪裏切りの勇者≫。――それが、ルカの師であるエスベルトの呼び名だった。魔物を引き連れ世界へ侵攻する厄災≪魔女≫。それを討ち倒し世界を救う≪勇者≫。勇者が魔女を討伐する――何度も繰り返されてきたその歴史は唐突に終わりを迎える。世界を救うはずだった勇者は、世界を脅かす魔女に下り、人類の敵となった――。人々は次なる勇者を求めた。魔女を――そして裏切りの勇者を殺せる≪英雄≫を。ルカは剣を振るい続ける。師匠を追い、真実を知り、師を奪った魔女を殺すために。これは決して語られざる物語。魔女と勇者と英雄の紡ぐ、この世界最後の英雄譚。

Twitterのタイムラインで目にしたタイトルだったので購入。聞いたことのない作者さんだったので調べてみたら少女向けレーベルで活躍している方なんですね。色々と期待を込めて読みました。

200年ごとに繰り返される災厄と救済。別世界から魔物を呼び寄せる『魔女』を、神イグレシアの末裔から与えられた聖剣で討ち滅ぼす『勇者』……今世もまたその歴史が繰り返される。そう信じていた人々は裏切られることになる。勇者エスベルト。魔女を討つべく旅立った勇者は、しかし魔女の軍門に下ってしまう。それから5年、エスベルトの弟子であった少女ルカは師の裏切りを未だ信じられぬまま、勇者養成所に身を寄せていた。新たな勇者となり、再び師と再会し真実を知ること、そして悪しき魔女を殺すために……。

ひとつの物語として、とても綺麗にまとまっていた面白かった。大切な女性を魔物に殺され、魔女を憎み魔物を皆殺しにしようとするほどの憎悪に胸を滾らせていた勇者エスベルトが、なぜ魔女に味方し、人類に刃を向けるようになったのか。そこには何か大きな事情が存在するはずだ。そう思うルカであったが、勿論そんなことを感じているのはルカただ一人。「裏切りの勇者」の縁者であることから侮蔑され続けているルカ。味方になってくれるのは、心優しい青年アランだけで、ルカは孤独な道を歩んでいる。

エスベルトがどんな人間で何を思って生きてきていたのか。物語を通して次第に語られる内に明らかになっていく。他人には理解できない……彼の背中を追いかけ続けたルカだから分かる師匠の想い。それを知った時、勇者と魔女の物語の「真実」が姿を見せる。この英雄譚は愚かだけど、とても美しい。