飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。」感想

明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。 (電撃文庫)

明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。 (電撃文庫)

〈あらすじ〉
生まれつきの恐い顔のせいで、学校で浮きまくっている坂本秋月。
彼はある夜、見ず知らずの美少女の事故現場に遭遇し、謎の人物から究極の選択を迫られる……。
『お前の寿命の半分で、彼女の命を救ってやろうか?』
秋月は寿命と引き換えに少女"夢前光"を救った、はずだったのだが……なぜか彼の体は1日おきに光の人格に乗っ取られてしまうというおかしな展開に!
始まってしまった二心同体の交換日記ライフ。イタズラ好きな光の人格は、トンデモな事態や人々を次々に引き寄せ、秋月の低空飛行人生を一変させていく!
しかし、光の過去を知る超絶イケメン君の登場によって、風雲急を告げる大事件へと発展してしまうのだった────。
交換日記の中でしか触れ合うことのできない「ぼっちな俺」と「残念な彼女」の、人格乗っ取られ型青春ストーリー!

第19回電撃小説大賞『金賞』受賞作品。
キャラクターたちを心から好きになれた。彼等に引っ張られるようにしてあっという間に読み切った。コミカルとシリアスが前後半上手に上手く配分され、最後には「やられた!」と思わず唸る瞬間が用意されている。

主人公・坂本秋月の目の前でひとりの少女が事故死した瞬間からこの物語は明ける。
「おまえの寿命の半分で、彼女をたすけてやろうか」
その囁きに応じた秋月を待っていたのは、寿命が半分になった新たな生活。この作品は多くの人が想像した『寿命が半分になる』現象を見事に裏切ってくれる。
秋月が救った少女・夢前光。彼女の魂が一日ごとに秋月の身体を乗っ取り、とんでもない日常を送り始めていたのだ。見た目は不良の上に口下手で友達のいない秋月の身体を、女子高生が一日ごとに支配する。こんなに恐ろしいことはない…!
しかもこの光という美少女。思ったら即行動の暴走娘。秋月の学校でのポジションを知って、その積極性を全開にして周囲の人間に接する。正直、この光景を客観的に見たらホラーだと思うのだが、それを笑いに変えられる光の輝きが眩しい。
積極的に動く大切さを思い知らされる。クラスで浮いていた秋月が徐々に受け入れられていく様に、何処かホッとする思いを抱くのだけれども、当の秋月は違う心境。
光に与えられた暖かい居場所。光任せで何もしていない現実。この現状を素直に受け入れられるほど単純な男じゃない。もうこの状況を受け入れて、楽しい学園生活を送れよと思うんだけどなあ(笑)

秋月がもう一人の自分…光を意識し始めてからはシリアスパートになる。生前、彼女は一体どんな生活を送っていたのか…そして知る。光という女性が確かにこの世界に存在していたことを。これまでの物語の流れの中で十分すぎるほど光の人となりは知っている。それだけに死ぬ寸前までの光の闇は目を背けたくなるものだった…。

しかし!しかし!しかし!
ここまでのコミカルからシリアスに至る流れに油断させられていたね。光がどういう人間か、あれほど描かれていたのに!
彼女の死の真相は、実に「彼女らしい」ものだった。ああ、彼女なら思わず顔を伏せてしまう理由ではなく、どうしようもなく笑ってしまうような理由で死んでしまう方がしっくりくる。だからこのオチに納得言ってしまったことに悔しさも覚える。
彼と彼女で寿命を分かち合う生活。劇的に変わった二人の生き方。けれども、二人の在り方は何ひとつ変わっていない。それを最後に感じて、心地良く物語の幕を引く。