飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「塔京ソウルウィザーズ」感想

塔京ソウルウィザーズ (電撃文庫)

塔京ソウルウィザーズ (電撃文庫)

  • 作者: 愛染猫太郎,小幡怜央(スクウェア・エニックス)
  • 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2013/02/09
  • メディア: 文庫
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〈あらすじ〉
鉄の箒にまたがった魔女が、夜空を滑走する。ここは≪塔京≫。
ソウル・ウィザーズが集いし魔法の都。自分の魂(ソウル)を改造し、死者のソウルを消費し『奇跡』を起こす者達をソウル・ウィザードという。
時計塔学園・双児宮に所属するウィザード・黒乃一将は、『自由騎士』として、自身の守護霊である不死の魔犬ブリュンヒルデと共に≪児雷也≫討伐クエストの任務に就く。
動物霊召喚専門(ペットセメタリー)の異名を持つ一将は奇策により≪児雷也≫に勝利。焼け残ったアジトから、金髪の少女の姿をしたデバイス≪ソフィア=04≫を発見する。
それは、一将に幸運と凶運をもたらし……。

電撃小説大賞『銀賞』受賞作。
ちょっと待って下さいよぉ〜!なんですか!この獣耳美少女ハーレムものは!?
はい、半分は冗談です。つまり半分は本当。表紙を飾るケモナー美少女に惹かれて購入した方。期待を裏切らないのでそのまま読み進めて下さい。

動植物の魂を書き換え、己の魂さえ弄りそれによって生み出される力を、死者の魂を消費して行使する魔術師『ソウルウィザーズ』が行き交う都市『塔京』が舞台。12の勢力に別れた魔術師たちは時に協力し、時に争いながら覇権を握ろうと蠢いている。
そのひとつの勢力に属す魔術師・黒野一将と彼の使い魔である狼犬ブリュンヒルデが任務中に発見し回収した人造人間…魂のないホムンクルスの少女を巡り、強力な魔術師たちに付け狙われる羽目になる。

この物語を楽しむポイントは二つあると思う。ひとつはプログラマーのように魂の在り方を書き換えることのできる魔術師たちのバトル。もうひとつが一将とブリュンヒルデ…ヒルダ、そしてメイドの見習い魔術師・真央との家族の絆。
正直な感想を言うと魔術師とソウルに関する設定はとっつきにくい。設定が複雑な分、説明しなくてはならない場面が多く読みにくいと感じる人もいるかもしれない。しかしそれも前半だけの話で、折り返しにもなると設定を理解出来るようになる。それを知ると同時に、魔術師の世界がいかに弱肉強食の世界であるかが分かり、背筋に冷たいものが走る。
そんな生きにくい魔術師の世界で、一人と一匹で生き抜いてきた一将とヒルダ。二人の連携は年齢不相応な実力を生み出し、深い絆によって繋がっているように思えたが、それも二人の間に割って入る猫耳不幸少女の真央を、一将が事故で使い魔にしてしまったことから亀裂が入り始める。いや、元からあった亀裂が明るみになったと言った方が正しいのか。

この狼犬ヒルダ。プライドが高く、一将を主と慕い、しかも中身は乙女。新たな仲間の「見た目は人間の女」であり「主と同じ魔術師」でもある真央に嫉妬するなというのが無理な話。案の定、一将の心を揺さぶり魔術師として未熟すぎる真央に対するヒルダの風当たりは強い。更には主の意思を無視して、自立的な物事を判断し、なんと人間の身体まで手にいれてしまう。読者の皆さん、ここからが本番ですよ!!
一将を挟み、ヒルダと真央の争い(と言ってもヒルダが一方的に責めるだけ)によって崩れ行こうとする絆。表面化した傷痕に、一将は本音をぶつけて対処する。綺麗に飾り付けされていない一将の心からの声は、ヒルダと真央に確かに響、新しい家族の絆を紡ぎ、そして可能性と成長を産み落とす。最後、格上の魔術師相手に戦い打ち勝つ土壌はしっかり作られていた。

この物語の世界観は巨大だ。これだけで終わって欲しくはないかな。一将とヒルダと真央。強い絆で結ばれた三人の魔術師の活躍をもっと読みたい。