飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「森の魔獣に花束を」感想

森の魔獣に花束を (ガガガ文庫)

森の魔獣に花束を (ガガガ文庫)


久しぶりに泣いたよ。
とても完成度の高い作品でした。不満もない。心に染み入る物語。

剣と魔法が大きな力として存在する世界。クレヲは裕福なグラント家の長男として生まれるも、気も身体も弱いため父親には見放され、後妻や父親の腹心などは腹違いの弟に跡を継がせようとする動きを見せ、家では完全に孤立していた。それでも絵を描くことだけが生き甲斐のクレヲは跡継ぎが誰になろうと興味はない…のだが、そんな彼にお構いなく「跡継ぎ争い」の試練として魔獣の徘徊する森へ行かなければならなくなる。森に入ったクレヲは護衛の剣士に騙され、更には魔獣に捕食されそうになる。しかしその美しい少女の形をした魔獣はクレヲの描く絵に興味を抱き、食べるのを止め、まるでペットのように彼を扱う。魔獣の少女ロザリーヌと気弱な人間クレヲの奇妙な「交流」が始まる。

まるで童話のように語られる美しい物語。否定され続ける生い立ちであったため、ネガティブな思考が身体に染みついてしまったクレヲが、常識がなくただただ無邪気に生きる魔獣ロザリーヌに出逢い、最初は単なるペットと飼い主のような関係であったのが、次第に強い繋がりを持ち、やがては恋に落ちて、心の成長を導く。何処までも思うままに振る舞うロザリーヌの姿を見ていると、いかに自分の心が汚れているかが分かって痛いなあ。ロザリーヌの純粋さは時に凶器だ…クレヲもそれで恥ずかしい思いをしたし(笑)恋は二人を強くした。クレヲはロザリーヌを守り、ロザリーヌがクレヲを守るために必死になって動き回る。そのひたむきな二人の思いが引き離されそうになり、互いを思う故に別れが訪れるのかと思ったが…この終わり方に心を救われた。二人の幸せが想像できる。読み終わって心の底から「ホッ」と出来た…良かった。本当に良かった!