飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「恋の話を、しようか」感想

恋の話を、しようか (ガガガ文庫)

恋の話を、しようか (ガガガ文庫)

〈あらすじ〉
地方都市の冬。高校生の桧山ミツルは、予備校で顔も知らない三人の生徒たちと同じ部屋になり――テスト中に停電が起きた。
なんでもない、一度きりの偶然のトラブルをきっかけに四人は出逢い、惹かれあっていく。
見上げれば灰色の空から雪……。クリスマスイブの夜、神野若葉は言った。
「信じていたら、奇跡は起きるんじゃないかって……でもそれを信じていなかったら、もし起きたとしてもそれは……偶然。たった一度だけの悲しい偶然」。
一生懸命未来に悩み、精一杯恋をする、十七歳。
ノスタルジックな純愛ストーリー。

この物語の中には確かな青春がある。それは歳を重ねた者には懐かしい感情を呼び起こし、今まさに青春真っ只中にいる者の胸をキュッと締め付ける。

停電した予備校の一室。その時間を共有したことをキッカケに四人の少年少女…高校生たちが、恋と人生に悩みながらも一歩一歩前に進んで行く姿を描いている。この物語の主人公である桧山ミツルは、お調子者な性格ではあるけれども、父親からのプレッシャーに胃を痛めながら己の行末に苛立ちを覚える少年。ミツルの悩みは、既に社会人として働く僕にはどう足掻いても手に入れることの出来ない「悩み」で、ミツルには申し訳ないが羨ましいとさえ思ってしまう。ミツルはまだ、自分の向かう先をどうとでも決められるから。閉じているように見えた未来は、ミツルの恋と大切な友人たちによって明るく照らされる。ちょっと角度を変えただけで、世界はとてもクリアに見える。それは勿論、ミツルだけではなく、反対にミツルの影響を受けた人たちにも起こる。

人間誰しも悩みを抱えている。その悩みが人生のもっとも美しい瞬間を映し出してくれる。それが青春。もう手を伸ばしても得られないはずの時間を、物語という形で味わうことが出来てささくれ立った心が癒されるのを感じた。