飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「クライシス・ギア 緋剣のエージェント・九重 慎」感想

クライシス・ギア 緋剣のエージェント・九重 慎 (集英社スーパーダッシュ文庫 み 2-4)

〈あらすじ〉
「クライシス・ギア」は有事の際、人間を守る発明品だった。だが10万人に1人の確率でこれを武器(ウェポン)化できる人間が現れた。
高校生・九重 慎もまた武器化の才能を持っていたため、政府機関「特防」に所属するエージェントとなった。そんな彼に、財閥令嬢である緋扇紗々良の身辺警護依頼が舞い込む。
ただの警護任務のはずが、緋扇本家の人間が全員惨殺されたことで自体は急変する!
紗々良を守る慎の前にも凶悪犯――クライシス・ウェポンの能力者「セブン」が現れる――。
強き「本能」を刃に――! バトルアクション開幕!!

長いことライトノベルを読んできましたが、三上康明さんは『ガガガ文庫』出身者だと勝手に思っていました。ごめんなさい。元々は集英社SD文庫デビューで、今回五年振りに古巣に戻ってきた、と。
そんな三上さんが描き出す物語は、『悪』を許すことの出来ない少年と、何処までも純で真っ直ぐな心を持つ少女との出逢いから始まるバトルアクションだ。

『クライシス・ギア』
それは人類の叡智の結晶。
人が危機に陥った際、自動的に膜状(シェル)に展開して、所有者の命を守る道具。命の価値に対してとんでもなく安価な『クライシス・ギア』は急速に普及していった。しかし同時に、『クライシス・ギア』は思わぬ副作用を人類にもたらす。本来ならば『防具』であるはずの『クライシス・ギア』を凶悪な武器にすることが出来る極一部の才能ある人間による犯罪。『クライシス・ウェポン』による犯罪を防ぐため、またそんな人間を管理するために生まれた政府機関『特防』に所属している九重慎は、実力はあるのに融通の利かない少年。そんな慎に与えられた任務は日本を支配する財閥のお嬢様・緋扇紗々良の護衛だった。奇妙な任務の内容に対して不可解な想いを打ち消せない慎であったが、紗々良が死んだはずの妹に瓜二つであったことから、守る者と守られる者の距離は急速に縮まって行く。

何を持ってもまずは『クライシス・ギア』の設定が、僕のような少年の心を未だ持ち続ける者には輝いて見える。銃弾すらも止めることのできる『クライシス・ギア』の力。そんな『クライシス・ギア』を簡単に破る『クライシス・ウェポン』は種類豊富、個性的。目には目を、歯には葉を、『クライシス・ウェポン』には『クライシス・ウェポン』を。常識外の戦いをする『特防』エージェントたち。そして彼等に牙を剥く異常な犯罪者たち。

日本刀を象った『クライシス・ウェポン』を握り、容赦無く犯罪者を狩る慎の表情から読み取れるのは「悪を許してはおけない」という想い。それは過去に普通ではない形で家族を亡くしたことがキッカケになっているのは間違い。

真っ直ぐなようで、何処か歪んでいる慎の心。危うい彼の心を優しく包み込んでくれるのは、財閥のお嬢様でありながら奢ることなく真っ直ぐに成長した少女・紗々良。
上位の特防エージェントたちを返り討ちにし、血の海に沈めていく殺人鬼『セブン』に付け狙われる紗々良は、護衛者である慎の元に身を寄せ、奇妙な日常をスタートさせる。しかしその穏やかな日常は長くは続かず、特防エージェントとして、ひとりの組織人として試される慎は、しかし紗々良を見捨てることなど出来ずに暴走する。

つまり九重慎はまだまだ子供なのだ。
故に危うく、故にしがらみなど気にせず、故に正しいと思う行動を取る。
しかし命を賭けた戦いの中で、子供も大人もない。だから、無意味に命を晒す前に気づかせてあげる大人の存在が不可欠なのだろう。その役目を第一種エージェント・蒼狼が担ったかというと、色々と疑問は残る。それでも自分がいかに無力であるかを思い知った少年はバカではない。バカで無いのであれば、どんな人間でも考えて、成長するものだ。

守ると決めたら守る。
揺るがない想いを抱え、愛しい紗々良を救うため、『セブン』に戦いを挑む慎から迸る熱意。戦いの最中、次々明らかになる真実、そしてその真実が覆い隠す更なる真実を求めて、慎は戦い続けることになるのだろう。
紗々良から見ての慎との関係に大きな変化はない。だが慎から見ての紗々良との関係は大きく変わってしまったが、その想いは全く歪みない。しかし紗々良が真の関係を知ることとなった時、それが悲劇にならないことを望みながら、その悲劇が織りなす衝撃を読みたいとも思う悪趣味な自分がいる。この二人の関係だけではなく、『クライシス・ギア』を巡る展開も、波乱が続きそうで実に先が楽しみだ!