飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「天帝学院の侵奪魔術師 ~再臨の英雄~」感想

天帝学院の侵奪魔術師<ドメインテイカー> ~再臨の英雄~ (HJ文庫)

天帝学院の侵奪魔術師<ドメインテイカー> ~再臨の英雄~ (HJ文庫)

〈あらすじ〉
<英雄>と呼ばれる大魔術師アストは、ある時、全く魔術が使えなくなった。
そんなアストに、国皇セドリックから、妹姫リトフィアの護衛のため魔術師学院に潜入してくれと頼まれる。
食堂で下働きをしつつ、生徒として編入されるアスト。
魔法が使えなくなった原因を探りつつ、刺客と戦うアストは、やがて魔術の根源にも関わる、重大な秘密に近付いていく。

内戦を収めた英雄が力を失い、再び巻き起ころうとする争いを目前に『英雄』としての力を取り戻す。
丁寧に紡がれる物語。用意された展開をしっかりと踏み締めながら前に進んでいくこの安心感が良い。

四年にも及び国を割っての内乱。その戦争に終止符を打ったのが、国皇セドリックの親友…『英雄』と呼ばれる魔術師アストだった。しかしこの戦いで生死を彷徨う重傷を負ったアストは、魔法を行使する力を失ってしまう。時は経ち、表舞台から姿を消していた元英雄のアストだったが、セドリックの頼みを受け彼の妹リトフィアがいる魔術師学院に潜入することになる。一国の王変わらぬ権力を持つ最強の魔術師『天帝』を目指す者たちが集う学院で、魔力を失ったアストはリトフィアを護る過程で黒い陰謀に巻き込まれていく。

この物語で重要になるのが魔術のシステム。
魔術を行使するには、自分を中心に据えた円形の『領域』を展開しなければならない。魔術師はその『領域』の王となり、魔術を使う。人は誰しも『領域』を持っているのだが、才能の差によって『領域』の差はまるで違い、半径数センチしか広がらない者もいれば、街ひとつ飲み込むほど巨大な『領域』を持つ者もいる。

その『領域』を失ってしまったアストが、巨大な『領域』を持つものの魔力を制御する術を知らない「落ちこぼれ」の皇女リトフィアと再会した時、物語は開ける。
兄の親友でかつて自分を救ってくれたこともある英雄アストをリトフィアが慕うのに時間はいらない。天然お嬢様でありながら強い意思を持つリトフィアは愛おしい存在で、アストが気になり付いて回る姿は実に可愛い。妹にするならリトフィアみたいな娘が良いよねえ。もうひとりのヒロインであり、リトフィアとは正反対の性格をしているエルゼの登場が彼女を良い意味で刺激して面白い。
そんなリトフィアとの距離を縮める二人であったが、アストを『英雄』として返り咲かせるために必要な力を前に離れ始める。けれども、アストへの信頼が勝り、一層二人の距離は接近する。この流れが丁寧に展開されるので、アストとリトフィア、エルゼの信頼関係が納得できる形になっている。

再び英雄となり、その先の道を行こうとするアスト。その英雄に寄り添うリトフィアとエルゼの関係を含めて、これからの展開が楽しみ。