飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「勇者には勝てない」感想

勇者には勝てない (電撃文庫)

勇者には勝てない (電撃文庫)


第18回電撃小説大賞銀賞作品。
現代日本にやってきた魔王と勇者モノ、という最近良く見る設定を使っているが、視点は魔王の配下であり彼等のちょっと間抜けな奮闘っぷり描いていて面白い。

『光の波動』を纏い圧倒的な力で魔王を追い詰め、幹部である三魔将を倒した勇者。しかし闇の力を持つ魔王は不死であるため何度でも復活する。それを阻止するため、勇者は次元魔法を使い魔王と三魔将の怨念を別次元の世界に飛ばし、更には自分自身も復活した魔王を倒すため身を投じる。それから月日が流れた別次元の世界こと現代日本。かつて人間を震え上がらせた三魔将は、平和な日本で生まれ変わった影響ですっかり心を入れ替え、高校生となった今まで平穏な日々を過ごしていた。そんなある日、三人が通う高校に転生した『勇者』が転校してくる。絶体絶命の三人ではあったものの、当の勇者が前世の記憶を失っていたことで事なきを得る。が、記憶が蘇る可能性を捨てられない三人は平穏な日常を守るため、天然ではあるが素直で可愛い女子高生『勇者』の監視を開始。記憶復活に悪影響と思われるものを排除しようと奮闘するのだが、その過程で意外な人物に転生した魔王と再会することになる。

物語展開はこじんまりしてるけど、それゆえに最後は新人賞作品らしく綺麗にまとめてきている。また転生した三魔将…男子三人で話を回していく作品も珍しい。主役のはずの勇者と魔王はあくまでも脇役で、加えて転生した二人は可愛い女の子であるにも関わらず、三魔将のペースで進めていくため、ヒロインを求めている読者にはやや不満が残るかと。それでも勇者に(勝手に)振り回されるアホな三人の行動は面白くて僕は気にならなかったな。残忍な行いをしていた三人が完全に平和ボケして、それを守るために必死になる状況はほんと笑える。また魔王が勇者の妹として転生し、三魔将同様に日本の考えに染まり世界征服をきっぱり諦め、それだけではなく姉想いである設定は不意を突かれるものがあった。魔王が勇者(姉)を想う気持ちが本物で、姉の人格を勇者の記憶によって消されないために三人とともに奮闘する姿は胸が温かくなる。なのでもっと登場して欲しかった!