飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー」感想

ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー (電撃文庫)

ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー (電撃文庫)


第18回電撃小説大賞銀賞作品。いや〜面白かった!
切符さんのシリアス主体の物語はこれが初めて。イラスト面も新しい可能性を楽しめました。

奪い奪われる争いの日々を続ける地下貧民街。その下の人間を嘲笑いながら生きる中流平民街。そして世界を支配し搾取する天空高等民街。
そんな完全格差社会によって隔絶された世界の底辺で生きてきた少年ジェイファは、地下貧民街を脱出し中流平民街にやってくる。奪う側の第一歩として豪邸に盗みに入るものの、そこで遭遇したひとりの少女に呆気なく取り押さえられてしまう。拘束されたジェイファは、豪邸の家主であり天空高等民街の住人でもある冬瀬一郎に地下貧民街で鍛えられた身体能力を買われ、ジェイファを取り押さえた少女…冬瀬陽月のパートナーとなり、『ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー』と呼ばれる謎のゲームに参加して『最強の敵』と戦うことに。奪う側・奪われる側を明確に決定付けるそのマネー・ゲームを通して、ジェイファから冬瀬皿次という名前に強制的に変えられた奪うことを信条とする銀髪の少年は、自分のことを何も語らない謎の多い美少女陽月に次第に惹かれ始める。

まずこの作品の魅力のひとつではなんと言っても『ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー』…通称『ダブルス・マネー』というゲーム。
異能を駆使しウィザードとウォーリアーのコンビで戦い、その勝者には多額のマネーが与えられ、注目のゲームでは莫大な富を生み出す。その戦いのシステムとダブルス・ゲームの裏でどのように想像絶するマネーが動いているかが非常に分かりやすい。それというのも、地下貧民街から這い上がってきたばかりで何も知らない真っ白な皿次の視点で全てが説明されるから。そして皿次がその戦いに身を置くことで、これがどれほど辛いゲームであるかを知っていける。

もうひとつの魅力はウィザードである陽月と、ウォーリアーである皿次のコンビ。それと木崎美紀という名の少女。
奪う側としてのし上がりたい皿次は粗暴の悪さとは裏腹に、親しくなった人のことを気に掛ける心根は優しい少年。無口な上に無表情な陽月は皿次に辛く当たるものの、胸の中ではパートナーを失いたくない想いを抱えている。二人が出逢ったときはまるで正反対の性格をしていると思ったが、読み進めていくと共通した想いを持っていることに気づく。その距離をぐっと近づけたのは陽月の元パートナーである美紀。二人の心の仲介役として活躍する彼女はこの作品一番の功労者ではないだろうか。皿次の本音を聞くために取った美紀の行動は青春小説のそれ。『奪わなければ奪われる』考えの皿次と『奪いたくない』想いの陽月が、互いを『奪われたくない』という点で一致。序盤からこれでもかと分かりやすく張られた『共感スキル』を呼び起こし最後には勝利を掴み取る。この流れは手に汗握ったよ、ほんと。

2巻発売が予定されているようなので、ようやくスタートラインに立ったこのコンビの戦いをまた読みたい。