飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「ディバースワールズ・クライシス」感想

ディバースワールズ・クライシス (MF文庫J)

ディバースワールズ・クライシス (MF文庫J)

〈あらすじ〉
魔モノが跋扈し、人々を脅かす世界。勇者として育てられた小さな少女クロワ。
しかし、魔王軍の襲撃を退けられず、クロワは己の無力さにうちひしがれそうになっていた。
そんな窮地に陥った彼女の前に豪腕の少年剣士アルが現れたとき、クロワの瞳に再び火が灯る。
世界を救わなければ――!!
「――だって、私は勇者だから」アルとともに、なおも都市へと侵攻する魔モノたちを撃ち払うなかで明らかになる魔王の真の目的。
と同時、クロワは自分自身に秘められた過酷な運命と対峙することになる――。
少女勇者の壮大な解放バトルファンタジー作品、鮮烈デビュー!

正直なところ、同時期に発売された他のMF文庫J新人賞作品の中では一番手に取りにくい表紙だと感じました。
華やかな他の新人賞作品と違って地味…ではあるものの、読んで貰えば分かる通りこのファンタジー世界に良く合っている。心地良い余韻を残すファンタジー作品でした。

魔モノと人間。魔王によって統率された魔王軍に為す術もなく、人間は追い込まれていた。
そんな追い込まれる人間たちの最後の希望。
王の命を受け、たったひとりで魔王を討つべく魔王軍と戦う少女勇者クロワ。世界を救わなければならない彼女は、しかし強力な力を持つ魔モノに敗れようとしていた。その危機を颯爽と現れた少年剣士アルに助けられる。魔王を共に倒したいと語るアルに、初めは不信感を抱いていたクロワであったが、彼の人柄に触れる内に惹かれるようになる。

「だって勇者だから」
この言葉が口癖の勇者クロワは使命感に縛られた女の子。勇者だから世界を救わなければならない。それが出来るのは勇者である自分だけだ。その想いからたったひとりで旅をして、魔モノと戦い続ける彼女は強い女の子であるが、同時に脆い一面も持っている。それは頼ることのできる人…アルと出会ったことで、初めて表に出ることになる。

謎めいているが頼りになる剣士アルは、勇者として突っ張って生きるクロワの心にするりと入り込む。クロワが『勇者』像を次第に崩していき、『恋する女の子』になっていく様が実に良い。勇者は魔王を倒すための機械でない、ちゃんとした人間…女の子なのだ。
クロワとアル、恋をして支えあいながら魔王討伐を目指す二人。その障害は魔モノであったり、魔王であったり、あるいは同じ人間であったり。しかし明かされるアルの秘密も含めて恋する乙女のパワーには勝てないのですよ。恋を知ったクロワは挫けることなく、前へ突き進む。その姿があまりにも清々しくて、思わず見惚れてしまいそうだ。