飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「安達としまむら」感想

安達としまむら (電撃文庫)

安達としまむら (電撃文庫)

〈あらすじ〉
体育館の二階。ここが私たちのお決まりの場所だ。今は授業中。当然、こんなとこで授業なんかやっていない。
ここで、私としまむらは友達になった。好きなテレビ番組や料理のことを話したり、たまに卓球したり。友情なんてものを育んだ。
頭を壁に当てたまま、私は小さく息を吐く。
なんだろうこの気持ち。昨日、しまむらとキスをする夢を見た。
別に私はそういうあれじゃないのだ。しまむらだってきっと違う。念を押すようだけど、私はそういうあれじゃない。
ただ、しまむらが友達という言葉を聞いて、私を最初に思い浮かべてほしい。ただ、それだけ。

ちょっと不真面目な女子高生と、とっても不真面目な女子高生。二人の友情はゆるりとしたもので、でも確かな繋がりを感じさせる。大きなことは起きない彼女たちの日常をいつまでも見守っていたい。

不真面目な学園生活を送る安達としまむら。けれども二人には決定的な違いがある。それはしまむらには友達がいて、安達にはしまむら以外の友達がいないこと。物語折り返しまではしまむらの視点で語られるため、孤高に生きるクールな安達の美しさが描かれていたりする。しまむらから見た安達は他人を寄せ付けない、他人とは距離を置く女の子。そんな安達と友達でいるけれども、この関係はとても希薄なものなのではないか。そう感じて、少し苦しそうな心境のしまむらの姿に胸がキュッと締め付けられる。

では安達の視点から語られる物語はどんなものであるのか?読者からすれば、しまむらの視点から見た彼女のちょっとした言動から、本当の安達がどんな女の子か容易に想像がつく。
安達の心に居座る独占欲。しまむらには自分以外の友達がいる。自分以外に意識を向ける相手がいる。しまむらの…特別な人になりたい。いけない感情とは分かっていながらも、しまむらに惹かれる想いを止められず、しかし素直に気持ちを伝えることも出来ず真っ赤になって悶える安達の可愛らしさといったらない。クールなのは外見だけで、中身はとんでもない乙女だ。安達がしまむらと過ごす日常は、何よりも特別なものなのだと感じる。

前半のしまむら視点があるからこそ、後半の安達視点が活きる。二人の間にある温度差は決して不快なものではなく、その二つの温度が混じり合って、ぬくぬくとした温かみを伝えてくる。今後しまむらと安達の友達関係がどのように続いていくのかは分からない。もしかしたら友達関係ではいられなくなるかもしれない。それでも二人にはお互いがお互いに『特別』だと思える関係でいて欲しいな、と願う。